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下関判決の内容についての解説

 関釜裁判の一審判決では「立法不作為よる国家賠償として」、元「慰安婦」原告3人に対し、各30万円を支払うよう、国に命じた。ただ、判決が出た当初は、判決骨子のみが報道陣に渡された為、「30万円が賠償の全てである」と誤解され、混乱が生じた。
 しかし、「30万円」というのは、「賠償立法をすべきところを、立法が遅れていること」についての国に対するペナルティであるのが、判決の主文をよく読むと分かる。つまり、国に対して、補償立法を事実上命じたに等しい、戦後補償裁判の中でも画期的な判決と言える。
 原告側の主張と、それに対する裁判所の判断について、以下で見ていきたい。

1.事実関係
 被害事実に関しては、被告国は、原告の陳述や供述に対して、全く反証していない。また、判決も、ほぼ全面的に原告の主張を認めている。
 「だまされて慰安所につれてこられ、暴力的に犯されて慰安婦とされ」「慰安所は、いずれも旧日本軍と深くかかわっており」「連日、旧日本軍人との性行を強要され続けてきた」と、被害事実と国の関与を、判決文では明確に認めている。また、「自らが慰安婦であった屈辱の過去を隠しつづけ、本訴に至って初めてこれを明らかにした事実とその重みに鑑みれば」「原告らの陳述や供述は」「打ち消しがたい原体験に属するものとしてして、その信用性は高い」というように、原告らの心に痛みにも理解を示している。
 更に、元「挺身隊」の原告らの陳述に関して、「原告らの原体験に基づくものであることに疑いはなく」「大筋においては信用できる」と一審判決は述べている。
 ただし、「女子勤労挺身隊の実態はなお解明不十分であり」とあるように、「女子勤労挺身隊」の実態解明は、「従軍慰安婦」と比べても進んでおらず、調査・解明は今後の大きな課題となっている。

 国は被害事実については争わず、法律問題によって、賠償責任から逃れようとしている。この姿勢は、他の戦後補償裁判にも同様であり、事実関係について争えば、被害事実の解明が進んで、更に広く戦争被害の真相究明にも繋がりかねない、との懸念があるのだろう。事実認定さえ行なわない判決が出てきている流れの中で、事実関係をほぼ全面的に一審判決が認めていることを、控訴審でも堅持したいところである。

2.法的根拠をめぐる問題
 「帝国日本の侵略戦争と旧朝鮮に対する植民地支配によって被ったとする被害につき、戦後補償の一環として、被告国に対し、国会及び国連総会における公式謝罪と損害賠償を」原告らは求めた。その法的根拠として、以下の5つの論点が挙げられる。(「山本弁護士講演録」もご参照下さい)
(1)「道義的国家たるべき義務」に基づく責任
(2)明治憲法二七条に基づく損失補償責任
(3)立法不作為による国家賠償責任
(4)「挺身勤労契約」の債務不履行による損害賠償責任
(5)不法行為による国家賠償責任

 その際に最も力点をおいたのは(1)の「道義的国家たるべき義務」に基づく責任である。
 これに対して裁判所は、(3)立法不作為に関する原告の主張を認めている。
つまり、
・ 原告らの被害事実を十分に認識した時点で、国には、賠償立法を行なう義務が生じた。
・ にも拘らず、立法(法律を作ること)による賠償せずにいたのは、違法である。

(このように、立法措置しないことを、「立法不作為」という。)
・ 「その賠償立法が遅れていること」に対するペナルティを、国に命じる
 これが元「慰安婦」原告3人への各30万円の支払いである。この点が「画期的」と言えよう。
 しかし、原告側の他の主張については、裁判所は全く聞き入れておらず、しかも、元女子勤労挺身隊原告らには、なんら救済を行なわなかった。

*更に詳しい法的根拠を知りたい方は当ホームページ宛てにご連絡下さい。