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立法運動を一緒にしませんか
       (関釜裁判を支援する会(福岡) 花房俊雄)
1.はじめに
2.なぜ「裁判を支援する会」が立法運動に取り組むのか
3.わたしたちに何ができるのでしょうか

1.はじめに

 戦後補償を実現するために、国会議員と市民、弁護士、学者による法律を作る取り組みが2年ほど前から本格化しています。昨年秋の臨時国会には、「慰安婦」問題の解決をはかる法案と真相究明法案が提出されました。
 「慰安婦」問題の解決のために、日本政府の謝罪と個人補償・資料公開を実現する促進会議を設置する法案が、野党の民主、共産、社民各党より参議院に提出され、民主党案が趣旨説明にまでこぎつけましたが時間切れで廃案になりました。今年の1月末より始まる通常国会に再提出を目指して各党でさらに法案の検討・整備を進めています。
 もう一つの法案は「慰安婦」問題、強制連行・強制労働、中国における731部隊による生体実験、生物兵器・化学兵器の使用、南京大虐殺などのアジアの戦争被害を中心に、日本人のシベリア抑留なども含めて資料の情報公開をするために国立国会図書館に《恒久平和調査局》を設置する真相究明法案です。1998年に自民党から共産党議員まで100人を越える超党派の国会議員が「恒久平和のために真相究明の成立を目指す議員連盟」(民主党の鳩山由紀夫、公明党の浜四津敏子共同代表)を結成して市民と学者と共に立法運動を進めてきました。
 昨年の11月20日衆議院に鳩山由紀夫(民主)、不破哲三(共産)、土井たか子(社民)の3党首と田中甲、木島日出夫、辻元清美の各党政策担当議員が提出者になり162名の国会議員の賛成を得て法案を提出しました。与党の自民党・公明党の中にも法案に積極的な支持者がいるため、廃案にならず継続審議になりました。今年の通常国会での審議入りに期待がかかります。
 もう一つ、女子勤労挺身隊原告に関係が深い「強制労働被害者補償基金」が学者や弁護士により提言されています。ドイツが第2次世界大戦で東欧諸国やロシアから強制連行した被害者100万人以上の強制労働への補償を政府と企業で取り組むために昨年成立した「記憶・責任・未来」財団設置法を参考に、日本の政府と企業で強制労働被害者への補償を実現させことを目指しています。今後市民や国会議員を加えて法案化が検討されることになるでしょう。

2.なぜ「裁判を支援する会」が立法運動に取り組むのか

 裁判による解決が極めて困難だからです。1990年代に日本国内で約60件、アメリカで約30件の日本による戦争被害者が裁判を起こしていますが、勝訴した裁判はわずか一件のみで、ご存じの通り1998年の関釜裁判一審判決だけです。それも、「慰安婦」原告だけの一部勝訴判決で、国会における賠償立法を命じたものです。この判決は国連やILO(国際労働委員会)で大きく評価され、国内での立法運動に大きな励ましとなりましたが、謝罪は却下され、賠償も国会にゆだねたもので司法による解決には程遠いものでした。

   *関釜裁判と立法運動*

 わたしたち「関釜裁判を支援する会」は8年前の結成当時から、原告たちの求める謝罪と賠償を実現するために裁判での勝利を追求すると共に、国会で法律を作ることを課題にしてきました。弁護士より「日本の司法の現実では、裁判に勝つことは不可能です。裁判は被害の事実を明らかにし、戦後責任が未解決であることを日本社会に明らかにするためです。支援する会は法律を作る運動にも取り組んでください」と言われていたからです。
 弁護士自身が裁判での勝訴は不可能とのリアルな認識に立って、そのうえで関釜裁判を立法運動につなげるために2つの仕掛けをしてきました。
 一つは山口地裁下関支部という日本の司法の最末端に提訴したことです。日本の司法は地方より中央、下より上に行くほど政府に追随する官僚的体質が強いことを見抜いて、地方の最末端の裁判所に硬骨の裁判官に巡り会え、立法に向けた積極的な提言の判決が出る可能性があることに賭けたのです。
 もう一つは他の多くの裁判が国際法を主たる請求の根拠においているのに対し、関釜裁判の弁護士は憲法という抽象的な法をあえて主たる請求の根拠にしたことです。
 植民地支配と侵略戦争への深い反省から作られた日本国憲法は戦争を放棄して平和国家として進むことを前文と9条で謳い、その実現を戦争被害者への謝罪と賠償を通して近隣諸国民との和解と信頼を築くことを義務づけていると弁護士は読み解いてきました。戦後補償が被害者の要求であるに止まらず、平和国家として日本が生まれ変わるための内在的課題であることを8年間の裁判を通して明らかにしてきました。憲法の命じている高い「道義的国家たるべき義務」を怠って、アジアの戦争被害者の救済を図る法律を作ることを怠ってきた政府と国民の戦後責任を鋭く問いかけたのです。
 2つの仕掛けは見事に当たりました。この弁護士たちの問いに勇気をもって応えてくれる裁判官が下関支部の裁判所にいたのです。彼らは被害者の訴えに誠実に向き合い、最高裁判例に抗して立法不作為の請求を採用し、「慰安婦」賠償法を国会に命じたのです。前述したように不十分ではあれ、画期的な判決でした。この判決を活かそうと日本で「慰安婦」裁判に取り組む6つの弁護団と支援者の手で「戦時性的強制被害者賠償法案」が作成されました。わたしたちは野党3党の「慰安婦」問題解決法案の審議・成立を目指して取り組みを強め、その過程で弁護団が作った法案を活かして行くように努力をして行きたいと思います。

   *真相究明法への取り組み*

 もう一つの法案である真相究明法に、わたしたちは3年半前から取り組みを開始しました。西尾幹二や藤岡信勝らの学者やマンガ家の小林よしのりたちが立ち上げた「新しい歴史教科書をつくる会」が中心になって、1996年の暮れから、「慰安婦」や南京大虐殺の事実を否定し、植民地支配や「大東亜戦争」を肯定するキャンペーンを開始しました。一部国会議員や在野の右翼を中心に、時代閉塞の中で自信を喪失した人々を巻き込み、政治全体の国家主義の強まりに乗じて、中学校の教科書から加害の歴史記述を削除する動きを作り出しています。このような動きは、戦後の歴代政府がアジア諸国民への加害の資料を非公開にし、封印してきたことによって支えられています。わたしたちは、歴史の歪曲の流れを断ち切るために、各省庁や地方自治体に秘匿されたり、未整理のまま放置されている資料の整理と情報公開を公的機関で行う立法運動を始めたのです。「過去の事実を解明しよう」、「情報公開は当然だ」とする党派を超え国会議員の賛同が広がり、法案成立を可能にする段階に来ています。

   *欧米における真相究明と和解の進展*

 国際的にもヨーロッパ各国で、第2次大戦中ナチス・ドイツに協力した自国政府のユダヤ人たちへの迫害の調査、謝罪、補償の動きが「戦争の世紀から和解の世紀へ」を合言葉にここ数年急ピッチで取り組まれて来ました。アメリカでも昨年末、「日本帝国政府情報公開法」が成立し、戦後米占領軍によって持ち去られた日本軍731部隊の資料を中心に日本軍の残虐行為に関する資料の情報公開の作業が始まっています。「真相究明から和解へ」のグローバルな流れは、日本での立法運動に大きな影響をもたらすでしょう。
 
3.わたしたちに何ができるのでしょうか

 「国会で法律を作る」・・・わたしたち一市民や小さな市民団体にとって、とりわけ国会のある東京から遠く離れた地方に住んでいる者にとっては捕らえ所のない課題に思われるでしょう。でもあなたのやれることはいろいろあります。あなたのできる範囲で取り組んでください。
・署名をする、周りの人にしてもらう。
・法案を審議する委員会(「慰安婦」問題解決法案は参議院・総務委員会、真相究明法案は衆議院・議院運営委員会)所属の委員に早く審議・成立するよう要望するメールや
FAXを送る。
・地元出身の国会議員に法案成立への協力を要請する。
・夏の参議院選挙で法案成立に積極的な議員に投票する。
・あなたのホームページに取り上げる。
・周りの人にも訴えかける。
・国会が始まるたびに要望を繰り返す。

 こうして人から人に立法への関心を伝えていくことです。わたしたちの小さな取り組みで国を変えることができる希望を伝えていくことです。
東京の各法案の成立に取り組んでいる市民たちは、担当国会議員との打ち合わせ、ロビー活動、全国へ向けての情報発信と事務所を設け、専従をおいて精力的に取り組んでいます。こうした活動を支えるカンパもできたらお願いします。
 「ドイツに比べて日本政府はどうしてこんなにだめなんだろう」と、なかなか前進しない戦後補償運動のなかでともすればわたしたちは無力感や絶望に捕らわれることもあります。しかしドイツの市民は戦後55年間の取り組みを通して成果を上げてきたのです。まだわたしたちの取り組みは10年に満たないものです。
 戦後補償運動はこれからが正念場です。何よりも被害者たちは希望をもち続けています。わたしたち一人一人が深い願いをもち、「希望を組織化して」(高木仁三郎著「市民科学者として生きる」より)立法に取り組んで行きましょう。もちろん55年間もかけることはできません。まだ被害者たちが生きているここ数年の内に。