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広島高裁判決報告集会まとめ
(Last Update 2001.4.11)

判決説明 〜山本晴太弁護士
 とてもつまらない判決です。
 主文は、一審判決の原告勝訴部分を取り消す、つまり立法不作為により元慰安婦原告に認めていた一人30万円を支払えという部分を取り消す、一審原告の付帯控訴を棄却する、そして、違憲確認の請求については却下するという、原告の訴えを全て認めない判決でした。
 理由については、例えば、憲法前文は抽象的な理念を定めたもので裁判規範性はない、損失補償については、明治憲法に規定がないので認められない。勤労挺身隊については企業との雇用契約であり、国は紹介しただけだから契約上の責任はない、立法不作為については最高裁判決に従う(1985年最高裁判決)、永野発言は本件の原告を特定してなされた発言ではないなど、法学部の学生なら誰でも書ける内容でした。
 あえて、取り柄があるとすれば、二つあります。補償を可能とする措置が講じられていないことに不満を抱く原告の心情は察するにあまりあるとしている点。そして、日韓協定について解決済みとする議論については国の主張を否定し、請求権については個別具体的に裁判所が判断するとしている点です。
 裁判所は何かを裁いたつもりかもしれないが、日本の裁判所にいかに解決能力がないかということを世界に知らせる判決でした。原告らが日本の裁判所を見捨てないと言ってくれるなら上告しようと思います。

(記者団との応答)
Q1 PTSDは認めたということか。
山本 診断がされているという事実を認定しているだけでPTSDに苦しめられているという認定ではありません。
Q2 挺身隊と慰安婦に国が関与したということは認めているのか。
山本 軍慰安婦は全体として認めている。勤労挺身隊に関しては、紹介・斡旋という形で関与したとしています。
Q3 日韓協定で解決済み論を否定したことについては。
山本 26日の東京地裁判決は給料のことで、韓国人の財産権を消滅させた法律が合憲かどうかを判断しています。請求権のことで国が法廷で日韓協定を持ち出したのはこれが初めてです。
Q4 日韓協定にふれているのは永野発言の関連でではないか。
山本 そうです。いい結論を導くためではなく、「解決済み論を流すことにより原告の苦痛を増幅させた」というこちらの主張に対しての反論の部分です。
Q5 被害者として言いたい。私は国際法を大学で勉強しました。罪に対してきちんと対処しなくてはいけないと教えられましたがどうですか。
山本 私もそう思います。


原告代理人としての感想 〜李博盛弁護士
 日本の憲法が被害に対して救済の余地がないと言いきった判決です。国会で法律を作るかどうかも含めて国民にボールが投げられたということです。判決の意味を知った原告のハルモニたちは「裁判官、出て来なさい。5分だけでも私たちの話しを聞きなさい。そうしないと私たちはここから立ち去れない」と抗議されました。何十回と同じ言葉を投げかけてきたでしょう。司法の心には、政府の役人には届かないのでしょうか。まだ裁判は最高裁への道が残されています。昨日までに原告の委任状をいただきました。河順女さんは亡くなられて相続人7人のうち、1人から委任状をいただいています。代理人の弁護士としては、これからも原告とともにやっていきます。


原告の感想
・朴頭理さん
 私の6年間の経験は恥ずかしくて人に言えないことでした。この裁判のため何回も何回も聞かれました。何人の軍人と何をしたのですか等、皆さんの前で何十回言ったか分かりません。周りにはいい日本人もいっぱいいます。この裁判で日本人のことがよく分からなくなりました。裁判長から言い渡された時、意味がわかりませんでした。花房さんがカバンを投げつけるのを見た時、これで終わりだと思いました。負けたのだと思った時、心臓が落ちたような気持ちになって真っ暗になって何も見えませんでした。死ぬまでやり続けます。
・梁錦徳さん
 私は悪い日本人に会いにきたわけではありません。小学校6年生のころ「天皇陛下万歳」という言葉ひとつで、その時は本当に陛下のために働いたと思います。こんな結果を聞きに来たのではありません。何度も警戒警報でおこされる生活でした。何よりお腹がすきました。怠けたと言っては叩かれました。二度とここには来たくありません。もう一度、賠償と謝罪を求めて裁判をしたいと思います。
・柳・Cさん
 私は不二越の工場へ行かされました。そこでは、骨が折れるほど働かされ、お腹がすきました。一年以上そこで働きました。終戦の一ヶ月前、日本人たちは戦争が終わることはわかっていたはずなのに、北朝鮮の新しい工場へ行けと言われました。今考えるとだまされていました。遠回りをして北朝鮮に連れていかれました。そこはまだ施設が整っていないので一ヶ月もすれば連絡するので、家に帰って待っていてくれということで、その時給料も払うということでした。手ぶらで帰らせる作戦だったのではないでしょうか。
 年月がたってこんなに年取りました。その間、日本は高度発展をして、韓国も生活が向上しました。自分が働いた分の賃金をもらうのは常識です。常識を訴えているのです。こんなに無視されるのは信じられません。
・朴・Soさん
 私たちは日本政府を見て生きてきたのではなく、私の命を定めに生きてきました。子供の時に連れて行かれて、働かされて身体が痛かったのですが、結婚する時に傷になりました。連れていってお金をくれない。自分の子供は部屋で気楽にさせておいて、他の国の子供を連れて来たことを何十年も反省していない。
 今日は理由なく棄却したのですが、私たちには支援してくれる人がたくさんいます。社会では活躍されているだろうに、私たちに何か感じるところがあるから、支援してくれていると思います。70歳過ぎて裁判所にくるのは大変なのです。ここに来たら、皆さんたちにお世話になるし申し訳ないという気持ちになります。8年間も私たちを支えて下さった皆様、弁護士さんたち。当然にやらなくてはならなかった日本の政府が目を閉じて、解決しないことは、韓国人を無視したことだと思います。どこの国の企業も働かせたら支払うことが当然です。支払わないのは泥棒です。判決の理由も述べず、私たちを無視しています。


韓国の支援者
李金珠さん(光州遺族会・会長)
 私たち老人が日本に来ることは楽なことではありません。今日の判決を聞いて驚きました。今回、李順徳ハルモニから、当時叩かれた頭は痛いし、足はぶるぶる震えるし、目まいがするので、代わりに会長が行って補償を全部もらって来てほしいと頼まれました。
 私たちは、植民地下生まれで皇民化教育を厳しく教えられました。日本人の先生は、一番下の野蛮人はシナ人で、その次の野蛮人が朝鮮人といわれました。日本は万世一系の帝国であり、兄弟国だ、日本は正義の国だと、道徳の教育も厳しかったのです。天皇陛下の武運長久を願って最敬礼。戦争中は皇国臣民だ、天皇の赤子だ、内鮮一体だ等の美名で100万名もの朝鮮人が狩り出され、幼い娘まで動員されました。
 昨年12月の「国際女性戦犯法廷」で指摘されたのに、今日の判決は私たちを動物扱いしています。次の判決を待ちます。
・姜蓮淑さん(釜山・通訳)
 朴・Soさんが倒れられて看病のためはずしていましたが、自分の代わりに話してほしいと頼まれて戻って来ました。彼女たちは最初、判決の内容が理解できませんでした。通訳をすると朴・Soさんは抗議して、今あなた方が生きているということは、私たちがあの時代に飛行機の部品を作りながら、戦争を手伝ったからだと話されました。被害国の人間ですが、こちらから手をさしのべているのです。韓国人との心からの和解を図って下さい。
金・ユンオクさん(韓国挺身隊問題対策協議会常任理事)
 挺隊協は関釜裁判だけは、希望がある判決がでると期待していました。昨年東京で「女性国際戦犯法廷」もしました。ハーグにあるユーゴのガブリエルネットワークの裁判官が、裕仁天皇と日本政府は有罪だと判決を下しました。しかし、日本のマスコミは扱ってくれませんでした。NHKは歪曲して報道しました。欧米の学者が抗議しています。21世紀も日本政府は同じ態度ですか。日本のみなさんにボールが投げられているのです。人道に対する罪です。国際法では罪です。ドイツは強制労働被害者に基金を作って補償に乗り出しました。
・姜済淑さん(ソウル・通訳)
 日本人が過去に自分たちがやったことを見直すひとつの機会を失ったと思います。自分たちのあり方を見直すいい機会だったと思います。ハルモニはいつも言っています。日本人が悪いのではなく、悪い責任者をきちんと処罰しなくてはならないといっています。連帯して運動していきたいです。


今後の取り組み 〜花房俊雄(関釜裁判を支援する会(福岡))
 私たち「関釜裁判を支援する会」は本日の判決をもって、口頭弁論があり、原告が韓国から来られ、支援者が傍聴するという、裁判を軸とした支援闘争は終わります。今後は、国会において謝罪と賠償の法律をつくることの実現に全力を傾けます。最高裁における裁判は法律中心の書類審査です。これは弁護団にお任せして、支援する会は、今参議院に上程されている「慰安婦問題の解決法案」と、植民地支配や侵略戦争によるアジアの被害を解明する「真相究明法案」の審議入りのために全力を傾けたいと思います。更に、女子勤労挺身隊については、ドイツにおいて昨年ナチドイツによる強制労働被害者に対する補償として「記憶・責任・未来基金」が設立されました。このようなものをつくるための法案つくりも急がれています。現在、学者や弁護士を中心に検討されています。立法化とともに、女子勤労挺身隊の被害者は、「未払い賃金を返せ」と主張して来られたわけですが、企業交渉も今後行っていきます。
 「慰安婦問題の解決」立法は昨年秋の臨時国会に、民主・共産・社民の3党が、参議院の内閣総務委員会で趣旨説明するまで審議入りしたのですが、会期切れになり、先週3月21日に3党合同で「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」が参議院に上程されました。資料に議員運営委員会の国会議員の名簿が出ています。この人たちにファックス・葉書等を集中して、審議入りするように働きかけていきたいと思います。参議院は与・野党が伯仲していますので、この法案が成立する可能性があります。、要請文を集中して下さい。
 次に真相究明の問題です。「新しい歴史教科書を作る会」の中学校の歴史教科書について、アジア各国では日本に対する不信や抗議が噴出しています。今こそ、「真相究明法案」の成立が望まれています。この法案は国立国会図書館に調査局を設置し、各省庁や地方自治体にある資料を整理・公開することを目的としています。米で情報公開法成立に大きな力を尽くされたサイモン・ヴィーゼンタールセンターのクーパーさんが、先日、日本に来られ、公明党の神崎代表・自民党の野中さん・社民党の土井党首に会って、米において日本軍の戦争犯罪資料の調査が始まったことを告げ、日本が自らの意思で情報公開をしてほしいと訴えていかれました。国会議員に対して東京のNGOを中心にロビー活動が展開されているところです。衆議院議員運営委員会の名簿一覧表がありますが、とりわけ理事に対してファックス等を集中して下さい。
 最後に企業の問題ですが、昨年富山県の不二越において、女子勤労挺身隊の個人8人と1団体に対して3千数百万円の解決金が出されました。関釜裁判の原告3名は不二越に動員されていますので、同じように補償をうける権利があるのです。不二越からは拒否されています。米で被害者側が負けた判決がでました。そのため、不二越は今後、いっさい支払わないという態度になってきています。現在、50名以上の被害者が提訴しています。富山のNGOグループト連帯して今後の方策を考えていきます。


各連絡会からのアピール
・福山連絡会
 99年からの2年間、ハルモニを支えてきました。9回の裁判でハルモニたちが証言することがどれほど辛かったか、裁判所で再現する苦痛を味わって来られました。第1審に勝る判決を期待しました。反核を訴える広島の裁判所が出したこの判決を許すわけにはいきません。「人道に対する罪」は永久に追求されるべきです。司法は3権分立を守っていると言えるでしょうか。今日の判決を許すわけにはいきません。
県北連絡会 昨夜、台湾から電話がありました。今日の傍聴には行けないが、台湾のアマ(性奴隷のおばあちゃん)たちは、判決を注目しているということです。私は中国でも若い人たちに歴史認識を教えてきました。今日は一番出したくなかった「不当判決」の旗を出さざるを得ませんでした。
・広島連絡会
 昨年の10月以来、日韓合同署名を集めてきました。その署名は先週末で15万8千を超える署名になりました。この署名は裁判長に対する手紙を添えて提出しました。アジア太平洋戦争の反省から、世界の人々に誓った道義的責任を果たしてほしい。今なお、後遺症に苦しんでおられる被害者に耳を傾けた判決を願いました。平和公園の碑文「安らかに眠って下さい。過ちは二度と繰り返しません。」の言葉を胸に、ハルモニをまず感謝の気持ちでお迎えしました。
・関釜裁判を支援する会(福岡)
 2月に韓国へ原告に会いに行きました。原告は精神的に物理的にたいへんな思いで日本に来られていることを実感しました。判決のあと、朴・Soさんが救急車で運ばれましたが、手を握っていると震えてくるし、顔色は青くなってくるし、このままSoさんと歩けなくなったらどうしょうと思って、すごく怖かったです。悪いことをして謝るということをなぜ国はできないなか、情けないです。今後、国と企業に働きかけて、やれることを全てやりましょう。


その他の裁判支援者の声
・梁澄子さん(下関判決をいかす会)
 慰安婦裁判の最初の判決は、この関釜裁判の一審判決だったのですが、きっと負けるだろうと思っていました。裁判支援を行いながら希望を持てなかったのです。韓国領事館が慌しくばたついたのを見て、「一部勝訴」を知りました。運動をしている者が希望を持たなくてどうすると、下関の裁判官から叱責されたような気がしました。裁判官の人間性が見られる判決文でした。運動する者はその何倍も努力をしなくてはならないのだという気持ちから連絡会を作りました。この一審判決後、運動体がまとまりました。立法の声がどれだけ高まっていくのかが今後の課題です。
・安達洋子さん(中国人慰安婦裁判を支援する会)
 2月27日の判決が裁判官の転出で延期されていますが、その間に遺族会と今日の判決がありました。この判決に続きたいという気持ちがあったので、棄却されたことは本当に悔しい。21世紀の中で「女性国際戦犯法廷」の精神をいかしていきたい。
・小池善之さん(東京麻糸女子勤労挺身隊裁判を支援する会)
 静岡の裁判は関釜裁判の流れの中から起こったもので、関釜の原告の中に東京麻糸に連れて行かれた人がいらっしゃるのです。一審は負けました。現在、東京高裁で争っています。女子勤労挺身隊裁判は名古屋でも行われています。まだまだ研究されてなくて、市民権がありません。皆さん「勉強が出来るよ」とだまされてつれてこられています。国家が強制連行政策の中、朝鮮人女性を連行したことを明らかにして、法律の分野は弁護士さんにお願いして、私たちはこの問題を提起していきたい。