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日本帝国政府情報公開法
(アメリカが所持する日本軍による残虐行為の記録の情報公開)
(Last update 2001.1.20)
「戦争被害調査会法を実現する市民会議」のHPより引用)

米国で「日本帝国政府記録」情報公開法成立
〜2000年12月27日、クリントン米大統領が署名〜

 米国政府が保管する旧「日本帝国政府記録」の情報公開を求める法律が昨年(2000年)末の12月27日、クリントン米大統領の署名によって成立した。同法は昨年10月に米国連邦議会上下両院で2001年度情報予算関連法案(H.R.4392)として満場一致可決されていたが、11月4日、大統領が言論の自由に抵触する恐れのある法案に拒否権を発動したため、議会に差し戻されていた。改めて修正された予算関連法案(H.R.5630)に大統領が同意し、正式に成立をみた。
 今回成立した日本帝国政府記録の情報公開法は、公開するにあたって一定の条件がつけられた。そのことについて大統領は署名に際し、この法律は「日本帝国軍隊に関する記録を機密情報リストから削除し、公開することに必要条件を要求している。
 しかし、すでにナチス戦争犯罪公開法(公法105-246)によって機密情報リストから除外していた日本の戦争犯罪に関する合衆国政府記録は、ナチス戦争犯罪公開法に準じた措置となり、制限を加えられない」との声明を発表した。発効は署名から90日後の2001年3月27日となる。
 駿河台大学の荒井信一教授より、法律制定の評価と法律全文の翻訳が寄せられたのでここに掲載させていただく。

日本帝国政府記録情報公開法について 荒井信一

 2000年12月27日、クリントン米大統領は、昨年10月に連邦議会両院が可決した「日本帝国政府記録情報公開法」(H.R.5630)を含む2001年会計年度情報関連法に署名した。これにより正式に公開法が成立、90日後の3月末には発効することになった(成立までの経過、ナチス戦争犯罪公開法との関係等については『季刊戦争責任研究』28号、30号所収の荒井論文「アメリカ議会の対日真相究明法案について」、「日本の戦争関連記録の情報公開について」を参照)。
 公開法は上記関連法の「第8タイトル 日本帝国政府の情報公開」に収録されている。以下はその全文の翻訳であるが、セクション番号は上記関連法の続き番号になっている。
 本法の特徴として、すでに指摘されているように、表題が帝国軍から帝国政府に変わっていることがまず注目される。これは戦後期の資料が重視された結果と思われる。降伏時にヒトラーと中央政府が存在しなかったドイツと違い、連合国の戦後処理は日本政府を通じて行われ、その間に731部隊などが不問に付された経緯があるのでこの変更は当然であろう。
 次にナチス法に基づく作業部会と日本帝国政府記録作業部会がドッキングしたことが、大きな変化としてあげられる。すでに昨年夏からナチ作業部会は、ナチスの同盟国の調査に主要な努力を向けていたし、これまでにも帰還者、捕虜の尋問調書、東京裁判関係資料、資産略奪などについての日本関係の記録が多数出てきているので、これは当然の処置といえよう。
 その他、目に付く点として議会の関与が強化されたこと、例外規定が若干緩められたことなどがあげられる。しかし法案の骨子は健在であると思われる。
 本法の発効は2001年3月27日であるが、すでに日本関係資料の洗い出しは大きく進行しているので、発効を待たず資料の公開は進むことと思われる。
 問題は日本側の受け入れ体制である。本法セクション804.の規定にあるように、裁判等のため資料を早急に入手したい場合について有利な規定もあるので、本法をどう活用できるかを考えることが重要であろう。

日本帝国政府情報公開法(荒井信一訳)

セクション801.略称 
 本法の略称は「日本帝国政府情報公開法」とする。

セクション802.名称
(a)定義ー本セクションにおいて:
 (1)省庁 AGENCY-「省庁」という用語は、合衆国規則タイトル5.セクション551でこの用語に与えられている意味で用いる。
 (2)省庁間部会 INTERAGENCY GROUP-「省庁間部会」という用語は本セクション(b)により設立されるナチス戦争犯罪日本帝国政府記録省庁間作業部会を指す。
 (3)日本帝国政府記録 JAPANESE IMPERIAL GOVERNMENT RECORDS-「日本帝国政府記録」という用語は、その人物に関し、1931年9月18日に始まり1948年12月31日に終わる期間中に、次のいずれかの命令によりまたはいずれかと共同して、人種、宗教、民族的出自、あるいは政治的見解の理由で何らかの人物の人体実験ならびに迫害を命令し、教唆し、援助し、その他荷担したと信じられるべき根拠を有すると合衆国政府がみずから認定したあらゆる人物に関連する機密扱いの記録または記録の一部をさす。
 (A)日本帝国政府;
 (B)日本帝国政府の軍隊により占領されたあらゆる地域のあらゆる政府;または
 (C)日本帝国政府の援助または協力により設立されたあらゆる政府;もしくは
 (D)日本帝国政府の同盟者であったあらゆる政府
 (4)記録 RECORD-「記録」という用語は日本帝国政府記録を意味する。

(b)省庁間部会の設立
(1)総論-本法施行から60日以内に、大統領はナチス戦争犯罪記録公開法(公法105-246;5U.S.C.552note)により設立された作業部会を、同時に日本帝国政府記録に関する本法の目的の遂行にも当たるよう指名するであろう。また同作業部会は本法発効の日より3年間存続する。この作業部会は「ナチス戦争犯罪日本帝国政府記録省庁間作業部会」と命名される。
 (2)構成員-上記(ナチス)法のセクション2(b)(2)を修正し、「他に3人」を削除して「他にパブリックメンバー4人、内3人は実際は1998年10月8日に本法の規定により任命された人物であることとする」を挿入する。

(c)任務
 本法施行の日付から1年以内に、省庁間部会は最大限可能な限りセクション803.と合致するように
 (1)合衆国の全ての機密扱いされた日本帝国政府記録を探索し、確認し、目録を作成し、機密解除を 勧告し、そして国立文書館記録管理局で公衆が利用できるようにする;
 (2)各省庁と協力しこれらの記録の公開を促進するのに必要な行動をとる;および
 (3)これら記録のすべて、これら記録の処理、および本セクションにもとづく省庁間部会と各省庁の活動を記載した報告書を、下院の政府改革委員会および情報常設委員会、上院の法務、情報委員会を含む議会に提出する。

(d)財政
 本法の条項を実行するために必要な金額を割り当てられるべき権限をあたえる。

セクション803.記録公開の必要条件
(a)記録の公開
 次の(b)、(c)および(d)にもとづき、日本帝国政府記録省庁間作業部会は、日本帝国政府記録を全面的に公開するものとする。

(b)例外
 省庁の長官は、以下のような特定の情報をパラグラフ(a)にもとづく公開から除くことができる-
 (1)個人のプライヴァシーを明らかに不当に侵すもの;
 (2)情報源または情報手段の不法な暴露により合衆国の国家安全保障上の利害が損なわれると思わるときに秘密の人的要員の所在を暴露し、または諜報要員あるいは手段の利用に関する情報を暴露するもの; 
 (3)大量破壊兵器の開発または使用において有益な情報を暴露するもの;
 (4)合衆国の暗号システムまたは活動を損なう情報を暴露するもの;
 (5)合衆国の兵器システムにおける最新技術の適用を損なう情報を暴露するもの;
 (6)今でも有効である現行の合衆国軍事戦争計画を暴露するもの;
 (7)合衆国と外国政府との関係を損なうような、または進行中の合衆国の外交活動を弱体化させるような情報を暴露するもの;
 (8)国家安全保障上の利益から保護業務が公認されている大統領、副大統領その他の公務員の保護にあたる合衆国政府官吏の現有の能力を損なうような情報を暴露するもの;
 (9)現行の国家安全保障非常事態準備計画を損なう情報を暴露するもの;または
 (10)条約または他の国際協定に違反するもの。

(C)例外の適用
 (1)総論ーパラグラフ(b)の小パラグラフ(2)から(10)に規定された例外を適用する際には、日本帝国政府の記録の暴露と公開が公衆の利益にかなうものであることを前提としなければならない。記録を保有する省庁の長が、例外指定された特定の利害にとり暴露と公開は有害となると裁定した場合にのみ主張できる。かかる裁定を行った省庁の長官は、上院の法務委員会および情報委員会と下院の政府改革、情報常設委員会をふくむ適切な管轄権を備えた議会の委員会に、ただちにそれを報告するものとする。
 (2)タイトル5の適用-パラグラフ(2)の小パラグラフ(b)の(9)に規定された例外を適用するという省庁長官の決定は、合衆国規則タイトル5のセクション552(B)(1)にもとづいて保有する記録の場合に適用されるものと同一の審査基準にしたがうものとする。

(d)調査または訴追に関係する記録
 本セクションは次の記録には適用されない。
 (1)法務省特別調査室による何らかの積極的もしくは消極的な調査、審査または訴追に関連しあるいは役立つもの;または
 (2)特別調査室のみが所有、保管、または管理するもの。

セクション804.日本帝国政府記録にたいする請求手続きの促進
 合衆国規則タイトル5のセクションの552(a)(6)(E)にもとづく早急な処理のために、セクション802(a)(3)に述べられたやりかたで迫害を受け、かつ日本帝国政府記録を請求しているいかなる人物もこれらの記録を要求する急迫した必要を有するものと考えられるべきである。

セクション805.施行日
 本法の規定は本法制定の90日後に発効する。