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慰安婦問題解決法案
(2003年1月31日)参議院に再提出される
(2003年1月31日)参議院に再提出される
(2002年12月12日)2度目の審議、参考人として戸塚悦郎神戸大学助教授と 横田洋三中央大学教授が出席。会期切れに伴い廃案になる。
(2002年7月23日)参議院内閣委員会で審議入り、3時間半の集中審議
(2002年7月18日)岡崎議員、法案の趣旨説明

「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」参議院提日帝下強制動員被害真

相究明に関する特別法

(2001年10月12日、提出韓国国会に提出された真相究明法案)

時性的強制被害者問題の解決促進に関する法律趣旨説明
(2001年6月19日、参議院内閣委員会における本岡昭次参議院議員の趣旨説明)

「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」
(2001年3月21日、民主、共産、社民の共同提出)

日本強制労働補償基金」提言

戦時性的強制被害者賠償要綱(第二次案)
(弁護士が作成した関釜裁判一審判決を活かした法案)

「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」参議院提出

2003年1月31日民主・社民・共産他の超党派議員によって、参議院に「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」が再提出されました。この法案は、2000年にはじめて提出され、今回が6回目です。昨年は 集中審議と参考人招致がおこなわれ、おおきく前進しました。 当面の目標は、議院運営委員会から内閣委員会への早期付託です。 請願署名にご協力お願いします。

法案提出者  岡崎トミ子議院議員
         円より子参議院議員
         千葉景子参議院議員
         吉川春子参議院議員
         大脇雅子参議院議員
         福島瑞穂参議院議員
         島袋宗康参議院議員
         田嶋陽子参議院議員
         高橋紀世子参議院議員


「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」提出を歓迎します。
 本日、「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」が参議院に再提出されたことを歓迎し、ご尽力くださった民主・共産・社民各党議員の皆様に心より感謝いたします。 私たちが支援している各裁判の原告らは、およそ10年もの間、日本政府に謝罪と補償を求め、自らの人権回復を訴えると共に、同じような被害者を再び生まないこと、二度と戦争を起こさないことを願い、訴え続けてきました。戦争の世紀と言われた20世紀の戦争被害者らが、自らの痛みを抉り出してまで訴えてきたその思いは、世紀を越えた今も日本政府に顧みられることなく、むしろ政府は新たな戦争協力の道を突き進もうとしています。日本政府のこのような姿勢は、残された時間の少ない被害者らに焦りと怒り、そして失望を与えているだけでなく、今、戦争の恐怖をも蘇らせているのです。  政府は、このような態度を改め、真の国際貢献、平和貢献の道に舵を切り直し、アジア諸国をはじめとする世界各国との真の和解へと進まねばなりません。かつての戦争被害者への補償を実現することは、その第一歩になると、私たちは確信します。  そして、その歩を踏み出すためにも、この度提出された法案が一刻も早く審議され、裁判原告をはじめとする被害当事者が望む方向で法律が成立するよう要望するとともに、そのための努力を、共に尽くすことを申し添えたいと思います。

2001年11月14日

「下関判決を生かす会」―日本軍性暴力被害者裁判支援連絡会―
戦後責任を問う・関釜裁判を支援する会
フィリピン人元「従軍慰安婦」を支援する会
フィリピン人元「慰安婦」と共に・ルナス カトリック東京教区正義と平和委員会

日帝下強制動員被害真相究明に関する特別法
(2001年10月12日、韓国国会に提出された真相究明法案)

第1条(目的)
 この法は日帝下強制動員被害の真相を究明して、歴史の真実を明らかにし、平和増進に役立てることを目的とする。

第2条(定義)
 この法で使用する用語の定義は,次のようなものである.
ハ1.「日帝下強制動員被害」とは、満州事変から太平洋戦争に至る時期に日帝に依って強制動員された軍人・軍属・労務者・軍慰安婦等の生活を強要された者が被った生命・人体・財産等の被害を言う。
ハ2.「犠牲者」とは、日帝下強制労働に因って死亡したり行方不明になった者あるいは後遺障害が残っている者で、第3条2項第4号の規定に依り、日帝下強制動員被害犠牲者と決定された者を言う。
3.「遺族」とは、犠牲者の配偶者(事実上の配偶者を含む)及び直系の尊・卑属を言う。ただし、配偶者及び尊・卑属がいない場合には兄弟姉妹を言う。

第3条(日帝下強制動員被害真相究明委員会)
@日帝下強制動員被害の真相を究明し、この法に依る犠牲者及び遺族の審査・決定等に関する事項を審議・議決するために、大統領所属下に日帝下強制動員被害真相究明委員会(以下、「委員会」とする)を置く。
A委員会は、次の各号の事項を審議・議決する。
1.日帝下強制動員被害真相調査に関する事項
2.日帝下強制動員被害と関連する国内外の資料の収集と分析及び真相調査報告書作成に関する事項
3.遺骨発掘及び収拾に関する事項
ハ4.犠牲者及び遺族の審査・決定に関する事項
5.史料館、慰霊空間造成に関する事項
6.日帝下強制動員被害に対する国家の立場の表明、政策樹立等に関する7.この法で定めている戸籍登載に関する事項
8.その他、真相究明のための大統領令が定める事項

第4条(委員会の構成)
@委員会は、委員長1名と常任委員3名を含む9名以内の委員で構成する。
A委員は日帝下強制動員被害に関して、専門的知識があり業務を公正かつ独立的に遂行できると認められた人の中から大統領が任命する。
B委員長は委員の中から大統領が任命する。
C委員長は政務職に補し、常任委員は1級相当の特別職公務員に補す。
D委員の任期は4年とする。
E委員が事故で職務を遂行できなかったり欠員になった時には、遅滞なく新たしい委員を任命しなければならない。後任に任命された委員の任期は前任委員の残余任期とする。

第5条(委員長の職務)
@委員長は委員会を代表し、その職務を統括する。
A委員長がやむを得ない理由で職務を遂行できない時は、委員長があらかじめ指名した常任委員がその職務を代行する。
B委員長は国会に出席し、委員会の所管事務に関して意見を陳述することができ、国会の要求があるときには、出席し報告や答弁をしなければならない。
C委員長は国務会議に出席し、発言することができ、その所管事務に関して国務総理に議案(この法の時効に関する大統領令案を含む)の提出を建議することができる。
D委員長は委員会の予算関連業務の遂行において、予算会計法第14条の規定に依る中央官署の章を見る。

第6条 (委員の職務上の独立と身分保障)
@委員は外部のいかなる指示や干渉も受けず、独立しその職務を遂行する。
A委員は身体上あるいは精神上の障害で業務遂行が顕著に困難になったり不可能になった場合及び刑の宣告に依る場合を除き、その意思に反し免職されない。
B第2項中、委員が身体上あるいは精神上の障害で業務遂行が顕著に困難になったり
不可能になった場合に該当するかの当否は、在籍委員の2/3以上の議決で定める。

第7条 (委員の欠格事由)
 次の各号の一つに該当するものは委員になることができない。
1.大韓民国の国民でない者
2.国家公務員法第33条の各号の一つに該当する者
3.政党の党員
4.公職選挙及び選挙不正防止法に依って実施する選挙に候補として登録した者

第8条(議決定足数)
 この法に特別な規定がない限り、在籍委員の過半数の賛成で議決する。

第9条(事務局の設置)
@委員会の事務を処理するために委員会に事務局を置く。
A事務局に事務局長1名とその他必要な職員を置く。
B事務局長は委員会の議決を経て、委員長の提請で大統領が任命する。
C所属職員中5級以上の公務員は委員長の提請で大統領が任命し、6級以下の公務員は委員長が任命する。
D事務局長は委員長の指揮を受け、事務局の事務を管掌し、所属職員を指揮・監督する。

第10条 (職員の身分保障)
 委員会の職員は刑の宣告・懲戒処分あるいは委員会の規定に定めた事由に依らなければ、その意思に反し退職・休職・降任あるいは免職されない。

第11条 (委員会の運営等)
 この法に規定された以外の委員会の組織及び運営に関して必要な事項は大統領令で定める。

第12条 (日帝下強制動員被害真相究明実務委員会)
@委員会の議決事項を実現し、委員会から委任された事項を処理するために、当該市・道知事所属下に日帝下強制動員被害真相究明実務委員会(以下、「実務委員会」とする)を置く。
A実務委員会は、次の各号の事項を処理する。
ハ1.委員会から委任を受けた日帝下強制動員被害に関する事項
ハ2.犠牲者と遺族の被害申告の収集に関する事項
3.被害申告に対する調査に関する事項
4.その他委員会から委任された事項
B実務委員会は、委員長1名を含む15名以内の委員で構成され、委員長は当該市・道知事がなり、委員は関係公務員と犠牲者及び遺族代表を含み、学識と経験の豊かな者の中から委員長が任命あるいは委嘱する。
C実務委員会の組織及び運営に関して必要な事項は条例で定める。

第13条 (真相調査の申請及び被害申告)
@犠牲者あるいは犠牲者と親族関係にある者や日帝下強制動員被害に関して特別な事実を知っている者は、委員会に真相調査を申請したり被害申告をすることができる。
A委員会は第1項の真相調査のための期間を定め、申告所を明記し公告しなければならない。この場合外国に滞在したり居住している者のために在外公館にも申告所を置く。
B第1項の申請は次の各号の事項を記載した文書でしなければならない。ただし、文書に依ることができない特別の事情がある場合には口述ですることができる。
1.申請人の姓名と住所
2.申請の趣旨と申請の原因となった事実
C委員会が真相調査開始の決定をした日帝下強制動員被害に関しては、第2項に関わらず、委員会が定めるところにしたがって追加で被害申告を受けることができる。
D第1項の親族関係と特別な事実の範囲は大統領令で定める。

第14条 (申請の却下)
@委員会は真相調査の申請が次の各号の一つに該当する場合には、その申請を調査せず却下することができる。
1.申請が委員会の調査対象に属さない場合
2.申請の内容がそれ自体明白な虚偽であったり理由がないと認められる場合
3.委員会が却下した申請と同一の事実に関して再び申請した場合。ただし、従前の申請で提出しなかった重大な疎明資料を備えた場合には、これにあらず。
A委員会は調査を開始した後にも、その申請が第1項各号の一つに該当することになる場合には、その申請を却下することができる。

第15条 (真相調査の開始)
@委員会は真相調査の申請が、第14条第1項で定めた却下事由に該当しない場合には、調査開始決定をし、遅滞なくその内容に関する必要な調査をしなければならない。
A委員会は日帝下強制動員被害が発生したと認めうるに足る相当の根拠があり、真相調査が必要だと判断される時には、職権で必要な調査をすることができる。

第16条 (真相調査の方法)
@委員会は調査の遂行において、次の各号の措置をとることができる。
1.犠牲者及びその親族その他の関係者に対する陳述書の提出要求
2.犠牲者及びその親族その他の関係者に対する出席要求及び陳述聴取
3.犠牲者及びその親族その他の関係者、関係機関、関係施設、団体等についての関係資料あるいは物件の提出要求
4.日帝下強制動員被害が発生した場所等に関する実地調査
5.検定人の指定及び検定依頼
A委員会は必要であると認められる時には、委員あるいは所属職員をして第1項各号の措置をさせることができる。
B第1項第3の規定に依って関連資料あるいは物件の提出を要求された関係機関等は、大統領令が定める特別な事由がない限り、これに応じなければならない。
C関係機関あるいは団体は日帝下強制動員被害関連資料の発掘及び閲覧のために必要な便宜を提供しなければならない。
D第2項の場合、当該委員あるいは所属職員はその権限を表示する証票を所持し、これを関係者等に提示しなければならない。
E委員長は第1項第2号の出席要求を受けた者が、正当な理由なく出席要求に応じない時には、出席要求に応じない者にたいして指定した場所まで同行することを命ずる同行命令状を発行できる。
F第6項の同行命令状には対象者の姓名、住居、同行命令をする理由、同行する場所、発行年月日、その有効期間とその期間を経過したら執行できず同行命令状を返還しなければならないという趣旨と同行命令を受けて拒否したら処罰されるという趣旨を記載し、委員長が署名・捺印しなければならない。対象者の姓名が分明でない時は、印象・体格その他対象者を特定しうる事項を表示することができ、住居が分明でない時は、住居記載を省略できる。
G同行命令状の執行は同行命令状を対象者に提示することをもってする。
H同行命令状は委員会の職員をしてこれを執行するようにする。
I教導所あるいは拘置所(軍教導所あるいは軍拘置所を含む)に収監中の対象者に対する同行命令状の執行は委員会の職員の委任に依って教導官吏が行う。
J現役軍人である対象者が営内にいる時には、所属部隊長は委員会の職員の同行命令状執行に協力する義務がある。
K第1項第3号に依って提出要求を受けた関係機関等の長は、その資料が外国で保管されているものである場合には、該当国家の政府と誠実に交渉しなければならず、その処理結果を委員会に通報しなければならない。
L委員会は直接あるいは関係機関を通して、外国の公共機関が保管している資料に関して該当国家の政府に対し、その公開を要請することができ、該当国家の駐在公館はこれに必要な措置をとらなければならない。

第17条 (調査の範囲)
@委員会は必要な場合、日帝の強制動員被害に関する調査のみでなく、関係機関が日帝の強制動員被害問題をいかに処理したかに関しても調査することができる。
A委員会は日帝の強制動員被害の真相を究明するために、当時の社会的・歴史的状況について研究をすることができる。

第18条 (調査の期間)
ハ 委員会は最初の真相調査開始決定日以後、2年以内に日帝の強制動員被害についての調査を完了しなければならない。
 委員会は第1項で定めた期間内に調査を完了することが難しい場合には、期間満了3カ月前に大統領にその事由を報告して、6カ月の範囲内でその期間を延長することができる。ただし、上の期間延長は2回を超えることはできない。

第19条 (決定)
@委員会は当該被害についての調査を完了した時には、次の各号の内容を決定しなければならない。
1.日帝の強制動員被害であるかの当否
2.当該被害の原因、背景
3.犠牲者及び遺族
A委員会は前項の決定をなす場合、遅滞なく申請人に結果を通知しなければならない。
B委員会は第1項の決定をした後、必要な場合、被害の真相等について公表したり大統領と国会に報告することができる。

第20条 (委員等の保護)
ハ 何人も委員・職員あるいは検定人に対して、暴行あるいは脅迫したり、あるいは職員に対し業務上の行為を強要あるいは阻止したり、その職を辞退させる目的で暴行あるいは脅迫をしてはならず、委員あるいは職員の業務を妨害してはならない。
ハ 何人も日帝下強制動員被害の調査と関連して、情報を提供したり提供しようとする理由で解雇、停職、減俸、転補等のいかなる不利益も受けない。
ハ 委員会は日帝下強制動員被害に関連した証拠・資料等の確保あるいは隠滅の防止に必要な対策を強く求めなければならない。
ハ 委員会は日帝下強制動員被害の真相を明らかにしたり証拠・資料等を発見あるいは提出した者に必要な報償あるいは支援をすることができる。その支援あるいは報償の内容と手続きその他必要な事項は大統領令で定める。

第21条 (真相調査報告書作成)
@委員会は第18条の期間が終了した日から6カ月以内に日帝下強制動員被害真相調査報告書を作成し大統領と国会に報告し、これを公表しなければならない。
A第1項の報告書は次の内容を含まなければならない。
1.日帝下強制動員被害の真相と被害者の被害状況
2.日帝下強制動員被害の発生原因
3.日帝下強制動員被害の真相を明らかにできない原因
4.日帝下強制動員被害の犠牲者・遺族その他関係者及び国家の責任
5.日帝下強制動員被害の真相を明らかにするための犠牲者とその遺族、関連民間団体の努力の内容とそれに因る成果及び被害
6.真相調査結果と真相が明らかにされていない日帝下強制動員被害の内容と真相が明らかにされない原因
7.その他必要だと認められる事項
B第1項の報告書には次の事項についての勧告を含まなければならない。
1.日帝下強制動員被害の犠牲者とその遺族の被害を回復するために国家がとらなければらない措置
2.調査結果で真相が明らかにならなかった日帝下強制動員被害とその被害者に対する国家がとらなければならない措置
3.委員会の調査内容と調査結果と得た資料等の処理および保存に関する事項

第22条 (委員会の責任免除)
ハ 委員会、委員、職員および委員会の委嘱あるいは委任を受けて業務を遂行した専門家、検定人あるいは民間団体とその関係者は、委員会の議決に依って作成・公開された報告書あるいは公表内容に関して故意あるいは重要な過失がない限り、民事あるいは刑事上の責任を負わない。

第23条 (慰霊事業)
ハ 政府は日帝下強制動員被害の犠牲者を慰霊し、歴史的意味を顧み、平和と人権のための教育の場で活用するために、次の各号の事業施行に必要な費用を予算の範囲内で支援することができる。
1.慰霊空間(慰霊墓域、慰霊塔、慰霊公園)造成
2.日帝下強制動員被害資料館及び博物館建立
3.その他の慰霊関連事業

第24条 (歴史記憶財団設立)
@政府は慰霊空間、日帝下強制動員被害資料館及び博物館の運営・管理等のため独立機構として財団法人の歴史記憶財団を設立するための充分な基金を出捐する。
A第1項は別の形態の基金出捐を妨害しない。
B歴史記憶財団は次の各号の事業を担当する。
1.慰霊空間の運営・管理
2.日帝下強制動員被害資料館及び博物館の運営・管理
3.追加真相調査事業への支援
4.日帝下強制動員被害関連の文化・学術活動への支援
C歴史記憶財団の独立性は保障され、政府は財団出捐時、出捐する以外に歴史記憶財団に対する監督権だけを持つ。

第25条 (戸籍登載)
ハ 日帝下強制動員被害に因って、戸籍登載が漏れ落ちていたり、戸籍に記載された内容が事実と異なっている場合、他の法令の規定に関わらず、委員会の決定に従い大法院規則が定める手続きに依って、戸籍に登載するか戸籍の記載を訂正することができる。

第26条 (秘密遵守の義務)
ハ 委員あるいは委員であった者、委員会職員や職員であった者、検定人あるいは検定人であった者、委員会の委嘱に依って調査に参与したり委員会の業務を遂行した専門家あるいは民間団体とその関係者は、その職務遂行過程で知った情報、文書、資料あるいは物件を他の人に提供あるいは漏洩したり、その外、委員会の業務遂行以外の目的のために利用してはならない。

第27条 (不利益の禁止)
ハ 何人もこの法に依って委員会にした申請、申告、陳述、資料提供等の理由で不利益を受けてはならない。

第28条 (委員会と他の機関の協力)
@委員会はその業務遂行の内容と手続き及び結果に関して、民間団体の諮問及び意見を求めることができる。
A委員会は必要だと認められる時には、その業務中の一部を特定して、地方自治団体等の関係機関及び民間団体や専門家に委任して遂行させたり共同で遂行することができる。
B第1項及び第2項に関して必要な事項は委員会規則で定める。
C第2項に従い委員会から委任された業務を遂行したり委員会との共同で遂行する関係機関及び民間団体の関係者や専門家は、その業務の範囲内で委員会所属の職員と見なす。

第29条 (公務員等の派遣)
@委員会はその業務遂行のために必要だと認められる場合、関係機関の長にその所属公務員あるいは職員の派遣を要請できる。
A第1項の規定により公務員等の派遣を要請された関係機関の長は委員会と協議して所属公務員あるいは職員を委員会に派遣することができる。
B第2項に依って、委員会に派遣された公務員あるいは職員は、その所属機関から独立して委員会の業務を遂行する。
C第2項に依って、委員会に公務員あるいは職員を派遣した関係機関の長は、委員会に派遣した公務員あるいは職員に対して人事及び処遇で不利な措置をとってはならない。

第30条 (類似名称作用の禁止)
 委員会でない者は、日帝下強制動員被害真相究明委員会あるいはこれと同一視されうる名称を使用できない。

第31条 (罰則)
ハ 次の各項の一つに該当する者は5年以下の懲役あるいは5,000万ウォン以下の罰金に処する。
1.第20条第1項の規定に違反して、委員会の委員・職員あるいは検定人を暴行あるいは脅迫した者
2.第20条第1項の規定に違反して、委員会の委員・職員あるいは検定人に対して、その業務上の行為を強要あるいは阻止したりその職を辞退させる目的で暴行あるいは脅迫した者
3.第20条第1項の規定に違反して、詭計をもって委員会の委員・職員あるいは検定人の業務の遂行を妨害した者

第32条 (罰則)
ハ 次の各号の一つに該当する者は3年以下の懲役あるいは3,000万ウォン以下の罰金に処する。
1.正当な理由なく第16条第6項の規定に依る同行命令を拒否したり第三者をして同行命令の執行を妨害しようとした者
2.委員会の調査対象になった日帝下強制動員被害に関する証拠を隠滅、隠匿、変造、虚偽の証拠を提出したり、偽造あるいは変造した証拠を使用した者
3.第26条で定めた秘密遵守義務に違反した者

第33条 (過料)
@次の各号の一つに該当するものは、1,000万ウォン以下の過料に処する。
1.正当な理由なく第16条第1、2項の規定に依る陳述書提出要求、出席要求に2回以上応じなかった者
2.正当な理由なく第16条第1項第3号の規定に依る資料や物件の提出要求に2回以上応じなかった者
3.正当な理由なく第16条第1項第4号の規定に依る実地調査を拒否・忌避した者
4.第30条に違反し類似名称を使用した者
A第1項の規定に依る過料は大統領令が定めるところに従い委員長が賦課する。
B第2項の規定に依る過料処分に不服があるものは、その処分の告知を受けた日から3日以内に賦課権者に意義を提起できる。
C第2項の規定に依る過料処分を受けた者が、第3項の規定に依り異議を提起した時は、賦課権者は遅滞なく管轄法院にその史実を通報しなければならず、その通報を受けた管轄法院は、非訟節次(手続き)法に依る過料の裁判をする。
D第3項の規定に依る期間内に意義を提起せず、過料を納付しなかった時は、国税滞納処分の例によりこれを徴収する。

付則
1.(施行日) この法は交付後6カ月が経過した日から施行する。ただし、委員及び所属職員の任命、この法の施行に関する委員会規則の制定・公布・委員会の設立準備は施行日以前になすことができる。
2.(委員の任期開始に関する適用例) この法により任命された委員の任期は、この法の施行日から始まると見なす。
3.(大統領令の制定) 委員長はこの法の施行日前であっても、国務総理にこの法の施行に関する大統領令案の提出を建議することができる。

戦時性的強制被害者問題の解決促進に関する法律案趣旨説明
(2001年6月19日参議院内閣委員会、本岡昭次参議院議員)

 ただいま議題となりました戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案につきまして、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 今次の大戦後すでに半世紀を超え、21世紀を迎えました。しかしながら、我が国が過去、侵略行為や植民地支配により多大の苦しみを与えたアジア近隣諸国において、これらの地域の人々が我が国に抱いている不信感や不安感は依然として根強いものがあります。その原因の一つが「慰安婦」問題であります。いわゆる「慰安婦」は、今次の大戦において、日本の軍や官憲などの甘言、強圧等により本人の意思に反して集められ、日本軍の慰安所等で将兵に性奴隷的苦役を強要され、女性の尊厳と名誉が深く傷つけられた未成年を含むアジアの女性たちのことであります。
 戦後、「慰安婦」が社会的な問題として意識されるようになったのは、1990年6月の参議院予算委員会において、その実態の調査を政府に迫ったことに始まります。当初、政府は「民間の業者によるものであり、国は関与していないので実態を調査することは不可能」との立場でしたが、これは韓国などの被害者の強い反発を招きました。その後、政府は調査を行い、1993年8月、初めて「慰安婦」問題への軍の関与を認め、お詫びと反省の気持ちを表しました。
 しかし、被害者に対する国家補償については、サンフランシスコ条約や二国間条約で解決済みであるとして拒否しました。また、国際連合においても「慰安婦」問題は、1992年2月の人権委員会で初めて取り上げられて以来、世界人権会議、世界女性会議等で大きな問題として議論されてきました。特に、人権委員会の「女性に対する暴力に関する特別報告者」クマラスワミ女史は、1996年1月、人権委員会に報告書を提出しましたが、その中で「慰安婦」は軍事的性奴隷であったとし、被害者に対する国家補償や関係資料の公開などを日本政府に勧告しています。この勧告を含む報告は、1996年4月の人権委員会の「女性に対する暴力撤廃」決議として各国の支持を得て採択されました。
 その後も、1998年8月、差別防止少数者保護小委員会の「戦時性奴隷制に関する特別報告者」のゲイ・マクドゥーガル女史が、戦時性奴隷等に関する報告書で「慰安婦」問題への対応を厳しく批判し、日本政府に対して改めて国家補償を求めています。さらに、国際労働機関の条約勧告適用専門家委員会も、「慰安婦」は強制労働を禁止した国際労働機関29号条約に違反しており、日本政府が国家補償を行うよう希望する旨の報告を四度にわたって行っています。今年四月の国連人権委員会でもクマラスワミ特別報告者が1996年の勧告が履行されていないことを再び指摘しています。
 ところが、政府は、「慰安婦」問題については国民参加の道を探求するとし、1995年7月、民間団体である「女性のためのアジア平和国民基金」を設立し、国民の募金による見舞金の支給で国の法的責任を回避しようとしてきました。しかし、この見舞金は、各国で多数の被害者から受け取りを拒否され、批判を受ける事態が続いています。また、韓国政府は、1998年4月に「女性のためのアジア平和国民基金」の「償い金」を拒否する元「慰安婦」被害者に対して一人当たり約300万円の支援金を支給すると同時に外交通商省を通して「日本は第二次大戦中に日本軍によって行われた反人道的な行為に対し、心から反省し、その上で謝罪すべきである」との声明を発表しています。
 台湾の当局も1997年12月に台湾の元「慰安婦」被害者に「立替支給」の形で一人当たり約200万円を先行支給し、日本政府に謝罪と国家補償を求めております。フィリピンにおいても、謝罪と国家補償を求める決議が昨年11月、フィリピン議会上下院に提案されています。
 日本国憲法前文は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と我が国の進路を示しています。この憲法の理念を踏まえ、アジアに生きる日本国民として、「慰安婦」問題を早急に解決する必要があるとの考えにより、このたび本法律案を提出した次第であります。
 本法律案は、今日、「女性のためのアジア平和国民基金」の事業が行き詰まりを見せる中で、問題解決のためには国の責任において措置を講ずることが不可欠であるとの認識の下に、「慰安婦」問題の解決に対する我が国の姿勢を明らかにするとともに、その解決のための基本的な枠組み及び道筋について規定するものであります。なお、具体的な措置につきましては、関係国等との協議を経て、決定し、実施することとなっております。
 次に、本法律案の内容の概要につきまして御説明申し上げます。第一に、この法律は、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期における旧陸海軍の関与の下での組織的かつ継続的な性的な行為の強制により女性の尊厳と名誉が著しく害された事実について、謝罪の意を表し及びその名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において講ずることが緊要な課題となっていることにかんがみ、これに対処するために必要な基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害者問題の解決の促進を図り、もって関係諸国民と我が国民との信頼関係の醸成と我が国の国際社会における名誉ある地位の保持に資することを目的としております。
 なお、「慰安婦」という言葉は、被害者が受けた被害の実態を反映していないので、本法律案におきましては、これに代わるものとして「戦時性的強制被害者」という用語を用いることとしております。
 第二に、政府は、できるだけ速やかに、かつ、確実に、戦時における性的強制により戦時性的強制被害者の尊厳と名誉が害された事実について謝罪の意を表し及びその名誉等の回復に資するために必要な金銭の支給を含んだ措置を講ずるものとしております。
 第三に、政府は、戦時性的強制被害者問題の解決の促進を図るための施策に関する基本方針を定めなければならないこととしております。また、政府は、基本方針を定め、又は変更したときは、これを国会に報告するとともに、公表しなければならないこととしております。
 第四に、政府は、第二の措置を講ずるに当たっては、条約等との関係に留意しつつ、関係国の政府等と協議等を行い、その理解と協力の下に、これを行うよう配慮するとともに、国民の理解を得るよう努めるものとしております。また、政府は、第二の措置及び第三の基本方針に定める実態調査を実施するに当たっては、戦時性的強制被害者の人権等に配慮しなければならないこととしております。
 第五に、政府は毎年、国会に、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関して講じた施策及び第三の基本方針に定める実態調査により判明した事実について報告するとともに、その概要を公表しなければならないこととしております。
 第六に、内閣府に、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関し、重要事項の審議、施策の調整・実施の推進、実態調査の推進等の事務をつかさどる機関として、戦時性的強制被害者問題解決促進会議を置くこととし、また、同会議に、実態調査の推進の事務を行う調査推進委員会を置くこととしております。
 なお、この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとし、施行の日から起算して十年を経過した日にその効力を失うこととしております。以上が、本法律案の提案理由及び内容の概要でございます。何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。

戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案
(2001年3月21日、民主、共産、社民共同提出)

*各党国会対策委員会と議院運営委員会に手紙やファックスで激励、要請を行っていただきますようお願いします。
(目的)
第一条 この法律は、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ、これによりそれらの女性の尊厳と名誉が著しく害された事実を踏まえ、そのような事実について謝罪の意を表し及びそれらの女性の名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において講ずることが緊要な課題となっていることにかんがみ、これに対処するために必要な基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図り、もって関係諸国民と我が国民との信頼関係の醸成及び我が国の国際社会における名誉ある地位の保持に資することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「戦時における性的強制」とは、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、その意に反して集められた女性に対して行われた組織的かつ継続的な性的な行為の強制をいう。
2 この法律において「戦時性的強制被害者」とは、戦時における性的強制により被害を受けた女性であって、旧戸籍法(大正三年法律第二十六号)の規定による本籍を有していた者以外の者であったものをいう。

(名誉回復等のための措置)
第三条 政府は、できるだけ速やかに、かつ、確実に、戦時における性的強制により戦時性的強制被害者の尊厳と名誉が害された事実について謝罪の意を表し及びその名誉等の回復に資するために必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の措置には、戦時性的強制被害者に対する金銭の支給を含むものとする。

(基本方針)
第四条 政府は、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るための施策に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 前条に規定する措置の内容及びその実施の方法等に関する事項
二 前条に規定する措置を講ずるに当たって必要となる関係国の政府等との協議等に関する事項
三 いまだ判明していない戦時における性的強制及びそれによる被害の実態の調査に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進に関し必要な事項
3 政府は、基本方針を定め、又は変更したときは、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。

(関係国の政府等との関係に関する配慮)
第五条 政府は、第三条に規定する措置を講ずるに当たっては、我が国が締結した条約その他の国際約束との関係に留意しつつ、関係国の政府等と協議等を行い、その理解と協力の下に、これを行うよう特に配慮するものとする。

(戦時性的強制被害者の人権等への配慮)
第六条 政府は、第三条に規定する措置を実施するに当たっては、戦時性的強制被害者の意向に留意するとともに、その人権に十分に配慮しなければならない。
2 政府は、第四条第二項第三号の調査を実施するに当たっては、戦時性的強制被害者その他関係人の名誉を害しないよう配慮しなければならない。

(国民の理解)
第七条 政府は、第三条に規定する措置を講ずるに当たっては、国民の理解を得るよう努めるものとする。

(財政上の措置等)
第八条 政府は、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るため必要な財政上又は法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。

(国会に対する報告等)
第九条 政府は、毎年、国会に、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進に関して講じた施策及び第四条第二項第三号の調査により判明した事実について報告するとともに、その概要を公表しなければならない。

(戦時性的強制被害者問題解決促進会議)
第十条 内閣府に、戦時性的強制被害者問題解決促進会議(以下「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 基本方針の案を作成すること。
二 戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るための施策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
三 第四条第二項第三号の調査を推進すること。
四 前三号に掲げるもののほか、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進に関する重要事項について審議し、及びそれに関する施策の実施を推進すること。
3 会議は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長に対して、資料の提出、説明その他の必要な協力を求めることができる。
4 会議は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

(会議の組織)
第十一条 会議は、会長及び委員をもって組織する。
2 会長は、内閣総理大臣をもって充てる。
3 委員は、内閣官房長官、関係行政機関の長及び内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第九条第一項に規定する特命担当大臣のうちから、内閣総理大臣が任命する。

(調査推進委員会)
第十二条 会議に、第十条第二項第三号に掲げる事務を行わせるため、調査推進委員会を置く。
2 調査推進委員会は、定期的に、又は必要に応じて、第四条第二項第三号の調査の状況及びその結果を取りまとめ、これを会長に報告するものとする。
3 調査推進委員会の委員は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。

(政令への委任)
第十三条 前三条に規定するもののほか、会議の組織及び運営その他会議に関し必要な事項は、政令で定める。

附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(内閣府設置法の一部改正)
2 内閣府設置法の一部を次のように改正する。
 附則第二条に次の一項を加える。
3 内閣府は、第三条第二項の任務を達成するため、第四条第三項及び前二項に規定する事務のほか、戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第   号)が同法附則第三項の規定により効力を失うまでの間、同法の規定による戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図るための施策に関する事務をつかさどる。
 附則第四条の二に次の一項を加える。
2 戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律が同法附則第三項の規定により効力を失うまでの間、同法の定めるところにより内閣府に置かれる戦時性的強制被害者問題解決促進会議は、本府に置く。
(この法律の失効)
3 この法律は、附則第一項の政令で定める日から起算して十年を経過した日にその効力を失う。

理 由
 今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ、これによりそれらの女性の尊厳と名誉が著しく害された事実を踏まえ、そのような事実について謝罪の意を表し及びそれらの女性の名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において講ずることが緊要な課題となっていることにかんがみ、これに対処するために必要な基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図る必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

この法律の施行に伴い必要となる経費
 この法律の施行に伴い、戦時性的強制被害者問題解決促進会議における調査推進委員会の設置等に関し必要となる経費は、平年度約千百万円の見込みである。

「日本強制労働補償基金」提言

 「基金」創立提言の趣旨

 補償基金の目的と運用

第1.「基金」創設提言の趣旨

 はじめに

 20世紀は二つの世界大戦をはじめとして多くの戦争が起こされ、その結果幾千万の人々の生命が失われ、貴重な財産が破壊され、人間の尊厳が著しく損なわれました。私たちは、21世紀の世界が全ての人々にとって真に人間らしく自由で平和に生きられる世紀となって欲しいと願わずにはいられません。
 アジア・太平洋戦争がもたらした戦争の惨禍は、アジアを始めとする各国の人々の心身に今もなお深く刻み込まれ、その被害は戦後55年を経ても癒されてはいません。その最大の原因は、日本がこれらの戦争被害者に対して真の謝罪と誠意のこもった補償を未だに行っていないことにあります。
 また、日本の植民地や侵略戦争の占領地での戦争被害者たちが、日本に対して個人の補償要求を提起出来ない不幸な事態が長く続いていたことにもあります。
 しかしながら、1990年代になってこのような状況に大きな変化が起こり、戦争被害者個人が日本政府や日本企業に対して補償要求を行う環境が作り出されました。その結果、韓国・朝鮮・中国の「強制労働」をさせられた被害者たちも、日本国や日本企業を被告とする損害賠償訴訟を次々と起こし、現在、東京・札幌・新潟・長野・名古屋・京都・大阪・広島・福岡・長崎の各裁判所で審理が行われています。

1.補償基金が対象とする「強制労働」

1) 朝鮮人の「強制労働」
 1937年7月、日本は日中全面戦争開始以降、軍需工業と関連諸産業の急激な発展にともなって労働力不足を招きます。特に炭鉱・鉱山・土建業などで深刻となり、政府に対して人員補充を要請しました。こうして1939年7月、日本政府は朝鮮人男子労働者の「強制連行」政策を決定しました。朝鮮人の「強制連行」は、その形態を「募集」(1939年)、「官斡旋」(1942年)、「徴用」(1944年)とエスカレートしていきました。1943年以降は、朝鮮人少女も労務動員しました。
 「強制連行」と「強制労働」の区別は厳密に言えば難しく、各人の実態を具体的に調査・研究することが何よりも肝心ですが、今のところ私たちは次のように考えています。
 「強制労働」の形態は、就労に至るいきさつが身体の拘束・暴力行使・警察などによる政治的圧力による強制だけではなく、法的拘束力による強制、「皇民化教育」による精神的強制までも含みます。仮に応募の段階では同意があったとしても、実際の労働条件を体験して当該労働から離脱する意思を持ちながら、それが暴力・処罰・威嚇などで抑圧された場合も「強制労働」と考えます。
 私たちのこの「基金」提言の中では対象外にしてはいますが、朝鮮人元軍人・軍属・「従軍慰安婦」などへの補償については、日本政府の単独責任で処理されるべき性格のものであり、その為の「基金」構想も考えるべきだと思っています。
 以上のような考え方に立って、私たちのこの「基金」提言の中では主として「強制労働」という表現でこれらの被害者の補償を問題にしています。

2) 中国人の「強制労働」

 1941年12月、日本は太平洋戦争に突入するとともに、戦時経済を支え国家総力戦体制を遂行する為に、不可欠の重筋労働部門における労働力不足はいっそう深刻化しました。すでに日本は「満州国」を成立させ(1932年3月)、この国家建設に必要な労働力として、中国東北部はもとより華北、更には揚子江地域からも中国民衆を「強制労働」に駆り出していました。
 戦局の推移に伴い1942年11月、日本政府は閣議決定によって中国民衆を日本国内にまで「強制連行」して労働力として使用することにしました。前述した植民地の朝鮮とは違って、アジア・太平洋戦争下の日本軍の作戦行動地域であった中国大陸における民衆(さらに朝鮮人などの諸民族を含む)の「強制労働」の実態はほとんど解明されてはいません。その多くはすでに死亡していたり、生存者の高齢化などもあって、この実態調査と研究の緊急性が要請されています。
 最後に、東南アジアの人々・イギリス・アメリカ合衆国・オーストラリア・ニュージーランド・オランダなどの捕虜や民間人などが、現地の炭鉱・鉱山や農作業・鉄道・道路・軍事施設の建設などで、あるいは日本に連行されて、日本軍と日本企業によって「強制労働」をさせられた人々も補償の対象に入れるべきです。

2.ドイツの「強制労働」補償

 日本と同様にナチス・ドイツも第二次世界大戦中に膨大な数にのぼる人々を「強制労働」に従事させましたが、戦後のドイツはこの問題に対してどのような責任を取っているのでしょうか。
 私たちがこの「基金」提言を作成するにあたって参考とした2000年7月にドイツ連邦議会で成立した「『記憶・責任・未来』基金の創設に関する法律」の歴史的経緯について簡単に紹介しておきましょう。詳細は私たちが作成した『ドイツ連邦共和国における「記憶・責任・未来」基金調査報告書』(ドイツ連邦共和国における「記憶・責任・未来」基金調査団編集・2000年9月刊行)を参照して下さい。
 戦後西ドイツは、ナチスの不法の犠牲者に対し連邦補償法などによって、とりわけドイツに在住していたユダヤ人に補償を行ってきました。しかし、東側諸国のユダヤ人に対しては冷戦体制のために補償の対象とはしていませんでした。
 また、補償対象の確定が制限的であったことから、対象となっても必ずしも全てのナチスによる不法の被害者に補償が行われなかった為、個別企業がユダヤ人強制収容所の囚人に対して補償をしてきました。にもかかわらず、「強制労働」の被害者たちはこれまで補償の対象から除外されていました。その理由は、これまでの補償がナチスの不法を人種・信仰・世界観といった理由での迫害に限定していたからでした。したがって、とくにユダヤ人、それも西欧諸国のユダヤ人のみが補償の対象とされてきたのです。
 このような限定された補償に対して、1980年代後半から国内外から批判が起こり、1990年10月の統一ドイツの成立以降さらに批判が活発になりました。この為、東欧諸国との間で和解基金が設立され、1996年には連邦裁判所が「強制労働」に関して個人請求権を認める判決を下しました。同年、アメリカ合衆国において「強制労働」に対する集団訴訟(クラス・アクション)が起こされた為に、「強制労働」問題は新たな局面に入ったと言えましょう。政党レベルでも「強制労働」被害者に対する補償基金設立の要求がなされていましたが、1998年の政権交代に際して強制労働補償基金設立が連邦政権の政策目標の一つにかかげられました。
 このような変化に対応して、ドイツ企業12社は、1999年2月に「ドイツ経済の基金イニシアティブ『記憶・責任・未来』」を設立しました。これは「強制労働」の被害者に対する補償を行うと同時に、ドイツ企業に対する提訴を取り下げること(法的安定性)を要請することを目的としていました。
 こうした動きを背景に、ドイツ連邦政府・アメリカ合衆国・被害者団体などの間で交渉が重ねられた結果、1999年12月に基金設立が合意され、またドイツ連邦大統領ヨハネス・ラウ(SPD)は、合意当日、「強制労働」被害者に対して「ドイツ国民の名において赦しを請う」という演説を行ったのです。その後、さらなる交渉を経て2000年7月に「『記憶・責任・未来』基金の創設に関する法律」がドイツ連邦議会で可決され、7月12日に調印されました。
 この法律の中で、「強制労働」被害者へのナチス国家の「重大な不正」に対して、「歴史的責任」と「政治的・道義的責任」が明示されました。また、未来に向けて過去の記憶を想起するとともに、ドイツ企業とドイツ連邦共和国への法的安定性が確保されることが重視されました。
 この歴史的な法律が成立するまでには、被害者代表組織とドイツ企業・ドイツ連邦政府が同じテーブルについて基金設立にいたったのです。こうして戦後のドイツが補償の対象としてこなかった「強制労働」の被害者に対して、ドイツ企業とドイツ連邦政府が折半で100億マルクの基金によって補償し、戦後責任問題を全面的に解決しようとしています。ドイツ連邦共和国のみならずドイツ企業までも、ナチス国家の「強制労働」の被害者に対する不正の責任を認め、個人補償を行うに至ったことは、加害者と被害者の和解を意味します。
 私たちは、アジア・太平洋戦争中に日本国と日本企業が行った「強制労働」の被害者に対して、真の謝罪と誠意ある補償を全面的に解決するための「基金」設立を考える上で、これまで紹介してきたドイツの貴重な経験から学ぶべきことは計り知れないものがあると考えます。

3.日本強制労働補償基金の目的

 日本国と日本企業は、「強制労働」の被害者に対する加害行為と被害事実を直視し、素直にその責任を認め、「強制労働」によって人間の尊厳を犯された人々の被害回復要求、とりわけ名誉回復要求を真摯に受け止めることが、今日国内外から切実に求められています。「強制労働」は、全ての人間が持っている個人の自由と名誉と尊厳を踏みにじる重大な人権侵害行為であり、絶対に許すことの出来ない不法行為なのです。また、日本政府が1932年に批准した「強制労働」を禁止したILO29号条約にも違反する行為です。また、「強制労働」の結果、賃金を全く得ていない者、あるいは一部しか得ていない者がいますが、これもILO29号条約(14条1号)に違反することを留意せねばなりません。
 私たちは、このような重大な不法行為である「強制労働」の被害者に対する戦後責任を果たすことによって、21世紀の国際社会において日本国家の名誉を回復し、国際社会でのアジア諸国民をはじめとする世界の人々の信頼と友好を深めることになるのだと思います。特に強調しておきたいことは、「強制労働」の被害者の多くはすでにこの世を去り、生存者も高齢で残り少ない人生であるということです。私たちは、これらの人々の生命のあるうちに一刻も早く、国際的な世論にもなっている「強制労働」問題を、緊急かつ全面的に解決すべきであると考えます。
 更に、このようなことが二度と再び行われることのない為にも、過去の事実を究明し、諸国民の相互理解を深め、被害者の名誉回復と連帯の為の様々なプロジェクトを推進したいと考えています。
 私たち日本国民は、戦後の再出発にあたって、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し」ました。また、「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する」とともに、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、「国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」ことを全世界に向けて表明しました(日本国憲法前文)。
 今回の私たちの「日本強制労働補償基金」の提言は、このような決意を誓った日本国民の意思の表明でもあります。
 なお、念のために付言しておきますが、私たちのこの提言は、「強制労働」以外の戦争被害者に対する補償を排除したり、またそれらを含めた包括的な戦後補償制度の創設を否定するものでもありません。あくまでも戦後補償問題を立法的に解決するとしたら、どのような制度がふさわしいかを討議するための一つの試案として提言するものであります。

第2.補償基金の目的と運用

1.補償の目的と内容

(1) 本基金は、以下の目的のために支払われるものとします。
1)被害者個人への謝罪と被害回復に資するための給付金の支給
2)被害者の遺族に対する弔慰金の支給
3)過去の事実を調査・研究し、この記憶を後の世代に継承するための諸プロジ
ェクトを企画・推進するための支出
4)被害諸国民との相互交流を通じて、恒久平和を確立していくための諸プロジ
ェクトを推進するための支出

(2) 内容
 個人給付金および遺族への弔慰金は、金銭の支払だけでは被害が回復されないこと、また金額としても不十分であることを自覚しつつも、謝罪と名誉回復の意味を込めた象徴的補償金として給付するものです。

2.補償金の支払方法

(1) 日本と被害国にそれぞれ補償基金センターを設置し、各被害者とプロジェクトに配分します。
(2) 基金の運営のために、日本国と被害国政府および内外のNGOから任命された委員から構成された運営・監査機構を設置します。
(3) 被害者の認定は、被害国におかれた補償基金センターが行う。

3.運営基金

運営基金は、基金から支出します。

4.本基金は、日本国と日本企業の拠出によって設立します。
以上

2000年10月11日

日本強制労働補償基金研究会
代表 松尾 章一(法政大学教授)

阿部 正昭(法政大学教授)
石田 勇治(東京大学助教授)
永山 利和(日本大学教授)
早川 紀代(フェリス女学院大学非常勤講師)
前田  朗(東京造形大学教授)
松本 克美(立命館大学教授)
矢野  久(駒沢大学教授)
山田 昭次(立教大学名誉教授)
泉澤  章(弁護士)
及川 信夫(弁護士)
小野寺利孝(弁護士)
尾山  宏(弁護士)
犀川  治(弁護士)
高橋  融(弁護士)
鳥海  準(弁護士)
森田 太三(弁護士)
山田 勝彦(弁護士)
渡辺 彰悟(弁護士)
渡辺 春己(弁護士)

事務局担当:小野寺利孝
fax(03)3818-6154

戦時性的強制被害者賠償要綱(第二次案)
(弁護士が作成した関釜裁判一審判決を活かした法案)

1.目的
 この法律は、国が、第二次大戦の戦前戦中期において、旧日本軍の直接的間接的関与により女性に対し軍「慰安婦」等として性的行為を強制したことが当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと、戦後その被害を放置し続けたことが、日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権の侵害であったことを認め、これら女性個人(『戦時性的強制被害者』という)に対してこれを謝罪し、賠償することを目的とする。

2.戦時性的強制被害者−定義
 戦時性的強制被害者とは、これに該当するものとして内閣総理大臣が各国または地域別に類型的に指定する受給要件を充たす者とする。

3.賠償
 国は、戦時性的強制被害者の中、1990年6月 日の生存者またはその遺族に対し、この法律に基づき、一時金として戦時性的強制被害者一人当たり金〇〇〇万円を支給する。

4.戦時性的強制被害者賠償委員会
 内閣総理大臣は、賠償金の受給要件の認定手続及び支給方法の確定並びに賠償金支給の実施のために、独立の戦時性的強制被害者賠償委員会を設立する。

5.事業の実施と広報義務
 国は、この法律に基づく賠償金の支給事業を5年以内に完遂できるよう努め、そのための広報活動をしなければならない。

要綱案に対する説明

1.目的
 この法律は、国が、第二次大戦の戦前戦中期において、旧日本軍の直接的間接的関与により女性に対し軍「慰安婦」等として性的行為を強制したことが当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと、戦後その被害を放置し続けたことが、日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権の侵害であったことを認め、これら女性個人(『戦時性的強制被害者』という)に対してこれを謝罪し、賠償することを目的とする。

コメント
@ 賠償対象の期間
 本要綱では、「第二次大戦の戦前戦中期」としたが、具体的対象期間としては1931年から45年を想定している。ここでは、表現の方法として上記のようにしたが、法案では具体的期間を示す必要があると考える。

A 対象者
 本要綱では、参加した弁護団の抱える依頼者が全て日本人以外(サンフランシスコ平和条約発効時に日本国籍を有しないとされた者)であることから、日本人以外を対象と想定しているが、日本人を含めるか否かは、別に運動上の問題として検討される必要があるであろう。対象者を日本人以外にする旨を法律の中に入れる必要があるか否かは更に検討する。

B「〜たことが当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であったこと」との部分は、軍「慰安婦」としての性行為の強制が当時においても違法であったことを明確にするために第二次案において追加した。

C上記の文言および「日本国憲法の根幹的価値に関わる基本的人権の侵害」の文言は下関判決に依拠したものである。本要綱案は、同判決において立法の必要性として強調された論理を最大限生かしていくことを前提に検討された。
 そこで、同判決の論理の中心となっている言葉をここで使用することとした。なお、「日本国憲法の根幹的価値」との文言には,本件の賠償を通じて日本のあり方自体がただされるべきであるとの意味も込められている。
 C目的には「侵害を認め」「謝罪」「賠償」の3要件を入れることとした。このことにより、この法律によって支給される一時金の性格が象徴的賠償の意味を有することを明らかにした。
 なお、第一次案においては「補償」との用語を用いていたが、軍「慰安婦」に関わる国家の行為が不法であることをより明からにするため,第二次案においては全て「賠償」と改めた。下関判決も国には「慰安婦原告らの被った損害を回復するための特別の賠償立法をなすべき日本国憲法上の義務」があると判示している。

D この目的の趣旨に副った国会決議等の方法で謝罪をなす必要があると考えられる。

2.戦時性的強制被害者−定義
 戦時性的強制被害者とは、これに該当するものとして内閣総理大臣が各国または地域別に類型的に指定する受給要件を充たす者とする。

コメント
@ 名称−「戦時性的強制被害者」とした意味について
 名称については、上記の他に「元日本軍『慰安婦』」「戦時性奴隷制被害者」とする案や「戦時性暴力被害者」とする意見があり、後者はかなり有力な意見でもあった。被害者を表現する言葉として何が相応しいかは、本要綱においては後に述べる対象者をどの範囲に想定するかに関わる問題である。どのような被害の態様を本要綱でいう賠償の対象とするかということである。
 そこで、被害の態様について、概略であるが誤解を恐れず分類してみれば次のように言うことができる。
 概略して被害の態様は
a.「慰安所」での被害−軍の直接又は関与的関与
b.組織的又は継続的な強姦
c.一時的な強姦

の3類型が考えられる。この中、どの類型までを賠償の対象とするかで名称も異なってくる。これまでの検討結果では、下関判決を生かす立場からa.bの範囲とするのが妥当であると考えている。
 なお、bを組織的又は継続的としたのは、組織的な場合には一過性のものも含む趣旨である。
 なお、先程の言葉に則していえば、「戦時性暴力被害者」の文言ではcを含み、「戦時性奴隷制被害者」等の文言ではaに限定して理解されるおそれがあり、「戦時性的強制被害者」が妥当ではないかとなった。

A 対象地域
 対象地域を、法律事項(法律の条文に明文化すること)とするか、政令等の下位法令とするかは議論のあるところではあるが、ここでは内閣総理大臣の指定するものとした。対象地域によって被害の態様等種々の相違があり、解決の難易度も違いが生じることも考えられる。そこで、例えば地域毎の順次支給とする等の方法も可能とするため、運用による弾力性をもたせるためのものである。

3.賠償
 国は、戦時性的強制被害者の中、1990年6月 日の日の生存者またはその遺族に対し、この法律に基づき、一時金として戦時性的強制被害者一人当たり金〔〇〇〇万〕を支給する。

コメント
@ 賠償の法的根拠−創設的規定 or 損害賠償義務の確認規定か?
 最も議論のあるところ。創設的規定とは、この法律に基づいて新たに賠償を求める権利が発生することを定めるもの。損害賠償義務の確認規定とは、既に賠償を求める法的権利があるが、特に戦時性的強制被害については特別法として賠償義務の確認をし、賠償の方法等を定めるものをいう。
 損害賠償義務の確認とした場合には、従来の法体系の中で損害賠償請求権が存在することが前提となるが、法的根拠については裁判でも種々の主張をしているとはいえ、確定的な法的権利として確立していない現状がある。下関判決でも、立法不作為による損害を認めたものの、性的強制被害自体の損害については立法的解決を促すものとなっている。加えて損害賠償義務の確認した場合には賠償金額の立証を要し、且つ金額も区々となるであろう。この場合には、立証の困難さがあることと伴に定額の一時金とはし難いものとなる。
 又、下関判決に副って放置し続けたことの責任を問うのは新たな権利とした方がよいのではよいのではないか。その他、平和条約で解決済との主張に対しては、創設的規定ならば、仮に解決済であっても新たに賠償することに憲法上の違反が無い以上法的には問題ない。つまり法的にクリアーできうる。等々の考えがある。以上の議論の下、ここでは創設的規定との考えに基づいたものとした。

注;「この法律に基づき」との文言が、それを意味する。
・且つ、定額による象徴的賠償との考えを基にした。
注;1.目的 の項で、賠償金の性格を「法的責任を認め、謝罪し、賠償する」との言葉で、支給する賠償金の意味づけをしたことによって、象徴的賠償の性格をもたせた。

A 創設的規定とした場合の権利と従来の損害賠償請求権との関係
 この法律によって定められる権利は、あくまでも新しい法律上の権利であって、従来の損害賠償請求権とは別のものであり、それに影響を及ぼさず、損害賠償請求の裁判等は引き続き行いうる。但し、後に述べる損益相殺はありうる。

B 賠償金の性格−一時金か年金か?
 年金とする方が、現実の被害回復には適するのではないかとの考えもあるが、本要綱の趣旨は、金銭賠償による象徴的賠償の意味をこめて考えれば、一時金が適するのではないかとの考えから、ここでは一時金とした。

C 賠償金の額−今後の議論に委ねる
 ここでは象徴的賠償との考えで一時金としての額を考える。金額は案としては提起しない。各位の意見を集めた上で確定することとした。
 金額は後の放棄条項との関係での考慮もあるが、本要綱では放棄条項は必要ないとの考えである。

注;放棄条項とは、この法律に基づく支給によって、今後損害賠償の請求はしないことの確定をすること。受給した場合訴訟は取下げとなり、新たな訴えもできない。
 類似法の例としては、USAの対日本人強制収容の賠償法に放棄条項があるが、これは大量訴訟における和解により取下げがなされたことが先行的にあったことによる。日本の法律では放棄条項の例は殆どない。
 但し、放棄条項がなくとも、損害賠償を求めた場合に受給の範囲で請求が充たされていると見なされる損益相殺の対象とはなりうる。

D 対象者−同種の立法例では立法時の生存者のみを対象とするのが通常であるが、ここでは自ら元「慰安婦」であることを名乗り出ながら立法までに死去した被害者を賠償の対象に含めることを意図して「1990年6月 日時点での生存者またはその遺族」を対象と規定した。
 右の基準日は軍「慰安婦」問題が日本の国会で取り上げられた日であり、下関判決でも、そのころには被害者への放置が「違憲的違法性を帯びるようになった」と指摘されている。第一次案では内閣官房内閣外政審議室調査報告書公表の日を基準としたが、賠償の範囲をより拡大するために第二次案では前記の基準日に変更した。
 なお、前記の基準日以前に死去した被害者についてはメモリアルの設置などにより償いが行われるべきであるが、本要綱は当面の課題である謝罪と個人賠償を規定し、その余は今後の課題とした。

4.戦時性的強制被害者賠償委員会
 内閣総理大臣は、賠償金の受給要件の認定手続及び支給方法の確定並びに賠償金支給の実施のために、戦時性的強制被害者賠償委員会を設立する。

コメント
@ 所管
 行政としてどの省庁の所管とするかの問題である。これまでの経緯からは厚生省、外務省等が考えられるが、ここでは、内閣とした。

A 委員会の性格
 ここでは、委員会を独立行政委員会とする。独立行政委員会とは、内閣の統制下にあるが、上級の指揮監督機関から独立してその権限の行使が認められるものである。
 独立行政委員会は委員会規則を制定しうるメリットがあり、実態を独立性のあるものとすることが可能である。委員会が内閣の恣意により運営されるのではなく、被害者や被害者の支援団体の意思を反映して運営されることを明確にするため、第二次案では「独立の」という確認的な文言を追加した。

B 認定機関
 賠償委員会を設置し、そこが認定する。
 その場合には、委員の任命者、委員の構成、委員会の権限等の定めにおいて独立行政委員会の性格を維持することが重要である。

C 不服申立手続
 委員会の受給決定(棄却の場合)に不服の場合は、その決定の取消を求める手続が必要であろう。行政委員会とすれば、行政処分としての性格を有することとなり、上級庁に不服を申し立てる行政不服手続を経た上、処分の取消を求めて訴訟を行う行政訴訟手続きによることとなる。

D 実施機関
 支給の認定がなされた後、支給を実施する機関として賠償委員会を実施機関とした。実際の支給に当っては、各地域の実情を考慮して実施すべきである。

E 行政委員会規則か法律事項か
 申請権者、申請手続等を法律事項とするか行政委員会規則とする。考慮の余地ある問題であるが、ある程度の要件は法律事項とするのが望ましい。その場合の要件として必要なものは以下のような事項がある。
・個人からの申請を要件とするか、或いは委員会の職権探知とするか、議論のあるところだが、前者とすべき。個人の意思は常に尊重すべきだからである。
・その場合でも、NGOの代理を可能なものとする必要がある。
・公知の被害者には職権も可とすべき場合もあるが、政府に周知する義務を負わせ一般的な職権探知は不可とすべきである。


5.事業の実施と広報義務
 国は、この法律に基づく賠償金の支給事業を5年以内に完遂できるよう努め、そのための広報活動をしなければならない。

コメント
@ 法的な考え
 ここでの考えは、事業の完遂を5年以内に行うことを目標とすることを規定するものである。
 では5年以内に支給決定の出なかった者についてはどうするかが問題となる。5年の期限を切ってそれまでに支給の申請をしなかった者には打ち切りとする考えもある。これを時限法という。しかし、本要綱では時限法の考えは採らない。何故なら地域、人によって5年で完遂できるか難しい場合があること、前述の順次支給の考えもあること等による。

注;時限法とは?
・ 期限を切って請求を遮断すること。USA日本人への賠償は時限法
・ 時限法とした場合は、積極的に国が申請を促すか或いは職権により探知する等が必要となる。USAの場合は国が積極的に探知した。

A 広報義務
 本要綱では、時限法とはしないが、国に積極的に申請を促す努力をするべき義務を負わせた。これを広報義務として規定した。