関釜裁判ニュース第54号

不二越訴訟の控訴審の始まりと,
「慰安婦」問題の立法解決に向けて

                              花房俊雄

会員のみなさま、お久しぶりです。

 昨年十月、富山地裁判決の報告を中心にしたニュースをお届けして以来九ヶ月が過ぎました。第二次不二越訴訟は名古屋高等裁判所金沢支部に移り、第一回口頭弁論が五月二八日に開かれました。「不二越訴訟を支援する北陸連絡会」の富山、金沢、福井の支援者たち約六十名が傍聴に集まりました。
 (北陸の支援者たちの懸命な裁判支援活動に感謝しながら、今後私たちは「慰安婦」問題の立法解決に重点的に取り組みます。関釜裁判の元原告柳CH、朴SO、朴SUさんと、光州遺族会の李金珠会長から支援を依頼された金JO、羅FA、成SUさんらが出廷するときは福岡や広島から金沢に駆けつけることになるでしょう)。


● 控訴審での重点的主張は

@ 強制労働が例外的に認められる場合は「一八歳以上の健康な男子に限定される」とした強制労働条約に違反する、一二〜一五歳の少女たちになされた強制連行・強制労働の残酷さと、「慰安婦」と混同された韓国社会で戦後生きてきた苦悩と家族の崩壊の事実に企業と国が共同正犯であること。

A 九〇年代の国側の「日韓請求権協定で放棄したのは外交保護権であり、個人の請求権まで放棄したものではないから、被害者が日本の裁判所に訴えることは妨げられず、賠償の可否は裁判所の判断による」(一九九一年八月二七日外務省条約局長)とする見解を翻して、「日韓請求権協定により被害者が裁判を受ける権利を失った」とする国側の主張のあからさまな変節とそれを追認した富山地裁判決の不当性の二点です。

 前回ニュースでお伝えしたように一審判決は、昨年四月二七日の最高裁判所の西松建設中国人強制連行訴訟での「一九七二年の日中共同声明は個人の損害賠償等の請求権をふくめ、戦争の遂行中に生じた全ての請求権を放棄する旨を定めたものと解され、裁判上請求する権能を失った」とする原告敗訴判決を踏襲するものでした。
最高裁判決は戦後補償裁判の最終的な幕引きを図るきわめて政治的な判決でした。

 日中共同声明には日韓協定とは異なり、国民の請求権の「放棄」や「完全解決」などの文言がなく、最も請求権放棄論が成り立ちにくい中国人に対してこうした判決がなされた以上、日韓請求権協定がある韓国人被害者の請求が認められることはまずありえないことでした。今後の裁判で原告勝訴はきわめて困難で、事実に関する審理を行わせることすら困難になる恐れがあり
ます。

 弁護団と北陸の支援者たちはこのような深刻な事態をはね返すべく、被害事実の深刻さと請求権放棄論を覆すことに全力を注いだ詳細な控訴理由書を提出し、次回九月八日の口頭弁論では原告本人尋問と学者証人を申請する予定です。

 採用されると、李金珠さんのところに申告された成SUさんが本人尋問に立つべく準備に入っています。
 裁判で最大限の努力をしながらも、関釜裁判の原告であった梁KUさんが原告に加わった名古屋三菱女子勤労挺身隊訴訟の支援者たちの企業や国連機関への懸命な働きかけのような活動が今後ますます必要となってくるでしょう。
 

●一方、韓国政府が強制連行被害者への救済のための「太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者の支援に関する法律」が昨年十一月に成立し、今年六月より施行されることになりました。女子勤労挺身隊被害者たちの救済は、未払い賃金等が一円に対して二千ウオンの率で支給されるのと、医療支援が年八〇万ウオン(約八万円)まで支給されることになった点です。未払い賃金では不二越が法務局にした供託金名簿によると

 柳CAさんは一一六円で二三万二千ウオン(約二万三千円)、朴SOさんは三〇七円で六一万四千ウオン(約六万一千円)、朴SUさんは一七〇円で三四万ウオン(約三万四千円)と、約一年間働いた報酬としてはまことに少ないものです。一九四五年に入って不二越に連れて行かれた他の原告たちは供託金すらありません。

 不二越時代の後遺症と、老いに伴う病気に苦しんでいる原告たちには年間八〇万ウオンの医療支援が少しは慰めになるでしよう。

 もともと韓国政府は未払い賃金や死者や負傷者への補償金に相当する「財産・権利・利益」は日韓請求権協定で解決済みであることを認めて被害者支援に取り組んだものの(それも当時と現在の物価上昇率の換算があまりにも低すぎる)、強制連行による精神的・社会的苦悩の救済を求める個人の請求権は放棄していないとして、日本政府の「慰安婦」被害者等への賠償を促してきました。まさにここのところが日本政府によって救済されなければならない被害なのです。


 
「慰安婦」問題の立法解決に向けて
 元「慰安婦」原告の朴頭理(パク・トゥリ)さんが亡くなられてから、二年余が経ちました。三人の「慰安婦」原告で唯一の生存者である李順徳(イ・スンドク)さんは、ソウル市内の地下鉄西大門近くにある「ウリチプ」に住んでいて、昨年五月にお会いしたときはあまりにもの顔色の白さに不安が胸をかすめたものです。毎週の水曜デモに参加している写真をインターネットで拝見し、元気そうな姿にホッとします。

今年の冬は多くの「慰安婦」被害者の訃報に接することになりました。生存されている方で国外に証言に行ける元気を留めている被害者はきわめて少数になりました。残された時間が本当に少なくなりました。

 一年前の関釜裁判ニュースでお知らせしましたように、アメリカ下院での「慰安婦」問題の解決を日本政府に求める決議案はヨーロッパ・アジア各国に波及し、「慰安婦」問題の公式謝罪と賠償を求める国際社会の要請は高まってきています。歴史修正主義の安倍内閣の退場で「慰安婦」問題などをタブーとする凍りついた国内世論も緩み始めています。

 何よりも「慰安婦」問題の立法解決を議員立法として議会に出し続けてきた野党三党の中心・民主党とそれに反対してきた与党・自民党の支持率が拮抗し、政権交代がリアルな問題として登場してきました。

 国内外共に「慰安婦」問題の解決をめぐる千載一遇の機会が巡ってきました。そして最後のチャンスがめぐってきました。
 一方、政権交代が現実味を帯びるに従い、これまで「慰安婦」問題の立法解決に無関心または冷笑をしてきた民主党内右派が法案の提出に圧力をかけはじめ、今年の通常国会提出も危ぶまれる状態で、国会会期末の六月十日にやっと上程されました。

 「慰安婦」問題解決の必要性と切迫性の世論化、とりわけ国会議員、分けても民主党内議員や次期衆議院議員立候補者に知らせていき優先的な政策課題にしていくこと、そして政権交代を実現することが急務です。

 福岡に、アメリカ下院決議に尽力した国会議員と在米コリアンのアナベル・パクさんを八月十一日にお呼びして、国際社会の声に耳を傾けたいとおもいます。そして、ここ数年国会内で「慰安婦」問題の解決を訴えてこられた神本美恵子議員から立法解決の課題を提起していただき、私たちの取組みの方向を明らかにしていきたいと思っています。

 同封したチラシや、ニュースの集会案内をごらんの上、ぜひ集会にご参加くださいますようお願いします。




 古くからの会員の方々とはすでに十五年以上のお付き合いとなりました。会員のみなさま健康に留意してくださいますよう、そして今後とも支えていただけますようにお願いいたします。

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