関釜裁判ニュース第51号

追悼 金景錫さん   松岡澄子

 太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会会長・金景錫(キム・ギョンソク)さんは、五月二六日早朝、八十年の壮烈な人生の幕を閉じられました。日本の戦争責任・戦後責任の追及の旗手として大きな業績を果たしてくださいました。

 一九九一年十月、単身東京地裁へ乗り込み、強制連行し強制労働させた日本鋼管を提訴し、また翌年九月には不二越強制連行被害者三人の企業裁判を準備し、原告団長として富山での十五年を戦い抜かれた方でした。

 一歩も引かない闘魂が、日本鋼管と不二越から和解金を引き出させ、補償の道を切り拓いて下さいました。そして二○○三年、二三人の原告を組織し第二次不二越訴訟の真ただ中で闘いの生涯を終わられました。

 昨年の夏、私の所属している福吉伝道所が春川(チュンチョン)の金景錫さんをたずねた時、「戦後の様相 今、日本の戦後を朝鮮半島から問う」というメッセージをいただきました。

「在韓軍人・軍属裁判」は、単に親の恨(ハン)を晴らすための裁判に留まらず、人道と日本人の良心に訴える裁判である。裁判とは公正さが一番の基本である。自国の戦争に強制動員した他国の人たちが、何故に差別されなければならないのか。自国民と同じ扱いが何故できないのか。最後にこう付け加えたい。誰しもがそうあるが如く、識者たる者は歴史の前に襟を正し、公正にすべきであると。人は、生きて、年老いて、死ぬのが道理とはいえ、人たる者、何か確たるものを必ずや、後世に残すべきである。

公正を追及し、人道と日本人の良心を覚醒させるために、幾多の裁判を果敢に闘い続けた金景錫さんの遺言として再び、感慨深く読ませていただきました。確たるものを後世に残してくださった金景錫さんの遺志を継ぎ、第二次不二越訴訟と全ての強制連行・強制労働被害者、日本軍性暴力被害者の方々の名誉と人権の回復、謝罪と賠償の実現に向けて努力したいと思います。

金景錫さん、長い間、闘士としての活動たいへんおつかれ様でした。そして、どうもありがとうございました。  

 

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