2005年中学校教科書採択の夏が終わって 教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま きくま
今年は「日韓友情年二○○五」、日本と韓国が国交正常化してちょうど四○年にあたり、日韓での交流事業がすすめられているらしい。しかしどうだろうか、この記念すべき年に「竹島(独島)」問題や小泉首相の靖国参拝、そして「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)教科書の検定合格などなど、友情にヒビの入るようなことが立て続けに起こった。マスコミは「反日」報道を繰り返すばかり。そのような中、私たちは「つくる会」教科書不採択を求める運動を展開してきた。
今年は来年度使用の中学校教科書採択の年であった。私たち「教科書問題を考える市民ネットワーク」の呼びかけで、「二○○五年教科書採択問題・広島県民ネットワーク」を立ち上げた。今までそれぞれの地域でやっていた運動を点から線へ、そして面へとひろげていったのだ。各地の運動と連携し、交流会、学習会を開催。限られた時間の中で様々な取り組みを行った。
共同アピールを作成し、各界の著名人から呼びかけ人を募り、広範な賛同をひろげることができた。西日本各地の運動とも連携し「教科書展」を開催。多くの市民に教科書問題に目を向けてもらえるいい機会になった。そして、「六・二五ともにつくろう!アジアの未来〜子どもと教科書」というテーマで日韓シンポジウムを開催。このシンポジウムに合わせて、韓国からの市民友好交流団の訪問があり、県内の自治体を表敬訪問。訪問団の中には一人の元日本軍「慰安婦」のハルモニがいた。チマチョゴリに身を包んだ彼女は「私(の存在そのもの)が歴史です」「子どもたちに本当のことを伝えてください」と訴えた。
県民ネットを立ち上げようとしていた矢先の今年二月、広島県教育委員会が「つくる会」教科書の宣伝資料を教科書採択に関わる担当者に配布していたことが明らかになった。露骨に「つくる会」を特別扱いしていたのだ。私たちは住民監査請求を提出し、県教委の「つくる会」を特別扱いしたことに対する監査請求や採択の情報請求など、不正な採択や行政の介入を許さない取り組みをした。
「七・一六あぶない教科書はいらない!広島県民集会」を開催し、これが県民ネット最後の大きな取り組みとなった。イデオロギーや政党、立場を超えて、被爆者、在日コリアン、反核・反戦・平和運動家、さまざな人たちに発言していただいた。そして国内外からたくさんの連帯メッセージが届いた。ミニコンサートでは広島在住の若き在日コリアンたちがサムルノリを披露。パレードでも沖縄のエイサーと共に盛り上げてくれた。道行く人たちに力強くアピールしていた。
今回広島は全地区不採択に終わったものの、決して手放しで喜べる状況ではなかったことを肝に銘じておかなければならないだろう。教育委員五名のうち二人が「つくる会」教科書を推していて、多数決の結果、ぎりぎりのところで不採択になった地区もあった。また教育委員の中に「つくる会」メンバーが送り込まれていて、積極的に「つくる会」教科書を推す発言がなされていた例もあった。次回の採択で、制度がより改悪されると「つくる会」教科書がより採択されやすい環境になる可能性がある。
もうひとつ手放しで喜べないのは、「つくる会」教科書以外の教科書の動向である。 今回、すべての歴史教科書から「慰安婦」の記述が消えてしまった。「強制連行」についても記述に大きな後退が見られ、南京大虐殺、「竹島」(「独島」)、拉致問題の記述などで、他の教科書全体が右寄りに傾いたこともかなり深刻な問題だ。よりよい教科書を子どもたちに手渡すために、私たちに何ができるのだろうか。
韓国の主要メディアは八月三一日付けで「つくる会」の「採択率○・四%」を一斉に報じ、「今年の教科書採択は、つくる会公言の一○%採択率をはねのけた市民側の勝利」という論調の評価を出していたとのこと。二○○一年よりはるかに深まった日韓連帯や、個々の地域での「勝利」についてはその結果を喜びつつ、あらたに「つくる会」教科書が採択されてしまった地域での状況や、採択結果だけではとらえきれない様々な問題について分析し、今後の対応について考えていかなくてはならない。
二○○五年の総括をしながら、四年後の二○○九年の闘いの準備に入っている。
※今年一冊の本が日本、中国、韓国の三カ国同時に出版された。その名も『未来をひらく歴史』(日本版:高文研)。歴史認識の共有をめざし三カ国のが共同で作った画期的な歴史本だ。一口に歴史認識を共有すると言ってもそう容易いことではない。しかし、このような本の登場は暗闇の中の光のように思える。