関釜裁判ニュース第46号

西松裁判、広島高裁で「時効の壁」を突破 藤田(中国人強制連行・西松建設裁判を支援する会)

 

 報道などでご存知のように、中国人強制連行西松建設裁判は2004年7月9日、広島高等裁判所において全面勝訴しました。高裁での主な争点は、不法行為責任、安全配慮義務違反の時効の壁を突破できるかどうかでした。判決は、損害賠償請求権を法律上消滅したとしましたが、時効をみとめることは権利の濫用になるとしました。

 判決要旨を引用しますと、本件強制連行及び強制労働はそれ自体著しい人権侵害であり、本件被害者らは、重大な被害を受けたが、帰国後も、強制労働時の事故による後遺症や疾病などに悩まされ、仕事にもつけず経済的困窮を強いられ、また日本へ行ったということだけで反日感情の強い中国国内で迫害されるなど長期間にわたりさまざまな苦痛を強いられてきた。これらの事情に加え、情報収集の困難さから、権利行使は事実上著しく困難な状況であったもので、本件被害者らは権利の上に眠ってきた者とは言えない。一方、被控訴人は、強制連行・強制労働に関する資料に虚偽の事実を記載し、広島県による調査の際も十分な調査をしないなど、控訴人らの情報不足の一因を作っており、反証の困難さも甘受すべきである。また、被控訴人は、控訴人らとの補償交渉において、態度を明確にしないまま交渉を続け、結果的に控訴人らの本件控訴提起を遅らせるなどその姿勢は必ずしも誠実とは言えないものであった。「本件のこのような諸事情にかんがみ、被控訴人に損害賠償義務を免れさせることは著しく正義に反し、条理に悖るというべきであり、被控訴人の時効の援用は、権利の濫用に当たり許されないものといわなければならない。」

 判決までの道をふりかえってみますと、92年に生存者を知り、93年から謝罪と補償、記念館の建設等を求めて西松と交渉しましたが決裂、98年1月16日広島地方裁判所に提訴しました。私たちが裁判でめざしたものはなによりもまず事実認定を勝ち取る、そして不法行為の認定を勝ち取る、さらにこれらをを通して何とか時効の壁を突破するということでした。

 4年間17回の口頭弁論で5人の原告らの証言による被害事実の提出、それを証明する日本人、中国人2名の証言、3名の学者証言などを行いました。その結果、時効により敗訴とはなりましたが、地裁は詳細な強制連行、強制労働の事実、不法行為責任の認定をしました。安全配慮義務違反の発生も認められました。

 新美弁護士を代理人に迎え、2002年7月控訴、控訴理由書には時効に関して可能な限りの資料、分析をそろえて提出しました。

 一方、時効の壁の問題、そして全体の360人の解決はかるという意味で和解の道も模索しました。それが、裁判所の職権和解勧告となりましたが決裂、04年3月結審、7月の判決となりました。

 私の感想では、時効の壁はとても厚く、勝てるとはなかなか思えませんでした。光明が見えてきたのは進行協議、和解勧告の過程で弁護士の働きかけによって、裁判長にこの問題解決の熱意が見えてきたと伝え聞いたときです。そして、新潟地裁判決など、実際に時効の壁をうちやぶってきたという全国の運動の進展に助けられたとおもいます。今後は、最高裁での最終的な勝利、そして原告だけでなく360人全体の解決をめざしていきます。

 不二越裁判も、西松裁判の勝利判決をステップに「不二越第2次訴訟」勝利に向けてともに頑張っていきましょう。


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