被害者の声を直接聴いて下さい! 

 〜フィリピンの日本軍性暴力被害者 福岡へ 花房恵美子

福岡裁判不当判決
 五月二十四日、福岡高裁で中国人強制労働事件福岡訴訟の控訴審判決を傍聴しました。
「原告らの来日は強制連行であり、労働は強制労働である」「国及び会社は共同不法行為責任を負う」と事実認定し、国と企業の責任を全面的に認め、「国の主張する国家無答責の法理は適用されない」と国側の主張を崩しながら、除斥と時効により原告たちに思いもかけない逆転敗訴を言い渡しました。裁判官たちは勇気のなさと彼等が保身に走ったことを満天下に見せつけました。原告たちはどんなに悔しかったことでしょう。
 関釜裁判もそうでしたが、地裁段階で勝訴判決がいくつか出てきていても、高裁の壁に阻まれていました。高裁で初めて勝てる可能性のある裁判として、一審で企業に勝訴したこの福岡訴訟は国内外から高い期待を集めていました。最強の弁護団を擁し、弁論では国と企業を圧倒していたこの裁判ですら勝てなかったことに、裁判官たちの背中を押す世論を作り得ていないわたしたちの責任を痛切に感じました。


戦後六十年に向けての取組み

 九○年代初めに提訴した戦後補償裁判の支援運動は、裁判自体は終わっていて近年沈滞気味でした。遅れて提訴した中国人強制労働裁判や名古屋・三菱訴訟に励まされ、来年の戦後六十年という大きな節目の年を目前にし、企業ネットを中心とする戦後六十年キャンペーン(第一段として五月二十六日に三百人余りで国会請願・企業要請一日行動)、国連・ILOへの取組み、国際連帯集会、立法運動等活性化しています。
 わたしたちも昨年四月の不二越第二次訴訟の提訴と昨年暮れの「早よつくろう!『慰安婦』問題解決法ネット・ふくおか」の発足で、被害者が生きておられる最後の機会に日本政府による謝罪と賠償への道筋をつけたいとねじを巻き直しました。


国会では
 先号の関釜裁判ニュースに一部ご紹介しましたが、三月一日、藤田一枝議員が衆議院予算委員会で、三月十八日、神本美恵子議員が参議院内閣委員会で、五月十七日 楢崎欣弥議員が衆議院決算行政監視委員会で「戦時性的強制被害者」問題でそれぞれ三十分質問されました。
藤田さんは国民基金に絞って質問され、明快な論旨で基金の破綻を明らかにされました。神本さんは頻発する現在の人権侵害と差別に対し、人権教育のための国連十年とはなんだったのか疑問を呈され、「慰安婦」問題への取組みを通して人権教育を豊かなものにしてきたい旨を述べられました。楢崎さんはこの問題は過去の清算であるとともに、未来を切り開く国家安全保障に関わる問題として、大局的な視点から具体的に質問していただき、内閣官房に戦後処理対策室的な機関の設置を提案していただきました(詳しくは両院のHPの議事録を見て下さい)。
今回の三人の福岡出身議員の国会質問はわたしたちを勇気付け、他の国会議員にも刺激を与え、年金問題で空転している国会で日本の政治家の国際的な良心を示されました。民主党内では議論を深化させるために若手国会議員を対象に連続した勉強会が企画され、すでに二度開かれたそうです。与野党を問わず議員に直接会い、被害者の思い・国際社会の動向・裁判も含めた経過と現状を訴えることは大事で、今後も取り組んで行きたいと思っています。
「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」は現時点ではまだ上程されていませんが、同じく三月十八日に参議院で質問された岡崎トミ子議員を中心に近日中に上程の準備がなされています。この法案の成立に向けて一歩でも二歩でも前進させたいと願っています。


被害者の声を聴こう

 六月二日と七日に中国人元「慰安婦」裁判の控訴審があり、原告本人尋問と、証人尋問が行われます。それにあわせてフィリピンから日本軍「慰安婦」被害者二人と支援団体リラ・ピリピーナのスタッフと通訳、計四人が来日されます。
昨年十二月最高裁で上告を棄却され、司法による解決が閉ざされる中で、日本政府に抗議し、中国の被害者と合同で院内集会に臨み、心ある国会議員と市民に訴えるために来日されます(院内集会は六月三日、「被害女性に希望を!補償立法の成立をめざして」と題して、下関判決を生かす会主催で行われます)。
 そのフィリピンの被害者を福岡にお呼びすることになりました。被害者に向き合い、その訴えを聴くという原点に戻り、被害者の願いをともに実現するために何をしていくのか考える集会にしたいと思います。
皆様のご参加をお待ちします。


関釜裁判ニュース No.45 index