立法ネットの発足 ― 最高裁棄却から一年

                       花房恵美子

 昨年の三月、不意打ちのように関釜裁判に最高裁棄却決定がでました。一瞬何の事かわからずぽかんとしたことを覚えています。

 すぐに原告ハルモニたちの顔が次々に浮かんできて、彼女たちに何と言って伝えたらよいか考えると心臓が痛くなりました。嫌な一年が過ぎようとする暮れの十二月二五日にフィリピンの元「従軍慰安婦」裁判にも同じく棄却決定がでました。カトリックの国フィリピンの大切なクリスマスの日に、仕事納めのように判決を出す最高裁の裁判官たちの無神経さに怒りに震えました。あふれるほど「人権」という言葉を使ってきた日本社会の中枢部でついに「人権」は定着することなく滑り落ちて行っていると感じました。

 広島高裁で敗訴した時、最高裁で逆転勝訴することは考えられず、なんの期待もしていなかったにもかかわらず、執行猶予状態だったのかもしれません。最高裁棄却決定には「裁判が終わった」という虚脱感と「なにも解決していない」という悔しさを抱き、立法運動に踏み出さねばハルモニたちに申し訳けがたたないと言う切迫感を持ちました。

  立法解決を考える集会とネットワーク結成

 関釜裁判を支援する会は「従軍慰安婦」問題と取り組む九州キリスト者の会と「戦争と女性への暴力」ネットワークふくおかと共催して、クローバープラザで十一月二二日、立法解決を考える集会を持ちました。東京から梁澄子さんと有光健さんをお招きして、参加者七二名の内容の濃い集会となりました。(*1)

 梁さんのお話は具体的で、在日の元「慰安婦」被害者・宋神道さんと支援者との関わり、その中での宋さんの変わっていかれよう、支援者も戸惑いつつ宋さんに試されつつ「成長」していった様子を面白おかしくというか、ぶちまけて話されました。楽しく,涙ぐみました。有光さんは第一級の資料を豊富に準備され、ここまで立法運動が進められている事に感動と敬意を覚えました。

 「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法案」の早期成立を目指して、東京と連絡を取り合って福岡でできることをしようと集会で呼びかけ、「早よつくろう!『慰安婦』問題解決法・ネットふくおか」を発足させました。

 「早よつくろう!『慰安婦』問題解決法・ネットふくおか」の活動

 国会議員が地元におられる年始に、直接議員にお会いして、「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」の早期制定への協力要請を企画しました。

 福岡県選出の国会議員二十四名全員に面会依頼書を送り、個人で夫々各国会議員に手紙・FAX・メールで協力要請をしました。総選挙直後の年末年始ということで、議員のスケジュールは凄まじく、そのなかで衆議院議員の楢崎欣弥さんと藤田一枝さんと松本龍議員秘書に会っていただきました。その後三月六日に神本美恵子さん(参議院)にお会いしました。

 面会では被害者の思い、その焦燥感。次々亡くなっている事。国民基金では解決できない事。最高裁で3つの裁判が上告棄却された事。討論を重ねてきて、被害者・被害国の支援者・被害国が成立を望んでいる「戦時性的強制被害者問題解決促進法案」が参議院で何度も提出されて、集中審議までされている事。国際機関の勧告が再三だされていること。日本政府は同じ回答しかしていず、国際的に恥をかいていること。国内には隠している事。

 この問題の解決を真剣に図って行く中で、近隣諸国との和解と平和の道があって、こんなに安上がりな安全保障はない。と話し、この法律を支持し、成立のために協力して欲しいとお願いしました。

 三人の議員の皆さんは要請を快諾してくださり、ご自分から国会で質問すると言ってくださいました。

 そして三月一日、藤田一枝議員は衆議院予算委員会第3分科会で川口外相に「女性のためのアジア平和国民基金」についての質問を行いました。―「償い金」の国別受取り者数が公表できない問題、オランダ、インドネシアでの事業の問題点などを追及、「本来国がやるべき事業を基金にやらせたことに無理があったのではないか」と「慰安婦」問題の早期解決に向けて国の方針転換を求めた。答弁に立った西宮信一参事官(アジア大洋州担当)が答弁に窮する場面も見られたが、川口外相は「法的枠組みは変えられない」と答弁するに留まった。衆議院の質疑で「慰安婦」問題が取り上げられたのは3年ぶり。(FAX速報より)―

 インターネット中継が行われ感動して聞いていました。

 三月三日には「『戦時性的強制被害者問題解決促進法案』の早期制定を求める3・3緊急院内集会」が開かれ、議員本人は十一人(衆院五人・参院六人)が参加、秘書約十人参加で椅子が足りなくなるくらいの盛会だったそうです。福岡からは藤田、楢崎、神本議員が参加され、それぞれ報告と決意表明がありました。

 このニュースが皆さんのお手元に届く頃に楢崎さんと神本さんの国会質問が行われているかもしれません。

 三月十七日「慰安婦」問題を解決し暴力のない世界を 第六百回韓国水曜デモ世界連帯行動

一九九二年一月、日本の宮沢首相の訪韓に抗議して始まった挺対協によるソウル日本大使館前の水曜デモは、以来、寒いときも、暑いときも一週も欠かさず(正確には九五年一月の阪神大震災の週のみ弔意を表して中止)続けられ、十七日で第六百回を迎えます。

 この日のデモを世界各地で同時開催しようとの呼びかけに応えて東京では「日本政府は「慰安婦」被害者に謝罪と補償を!世界の声を聞き、立法の早期実現を!」第六百回水曜デモ連帯 国会前集会が行われます。福岡でも「ウイメン・イン・ブラック福岡」と「早よつくろう!『慰安婦』問題解決法・ネットふくおか」と共同で呼びかけて、夕方、連帯のスタンディングをすることになりました。

 「慰安婦」被害者の被害とその尊厳回復への思いをわたしたちは五感を総動員して思い起こさねばならないでしょう。彼女たちの願いと闘いに向き合い、ともに実現する努力は、未解決の戦後補償問題を実現させる運動とともに、日本社会の軍事国家への道を許さない運動の軸になると思っています。

 「早よつくろう!『慰安婦』問題解決法・ネットふくおか」への参加を呼びかけます。

 ホームページはhttp://homepage3.nifty.com/net_fukuoka/index.htm

 これから充実させて行きます。

(*1)この集会の質疑では「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」の国籍条項が問題になりました。日本人「慰安婦」を排除するかたちになる「国籍条項」には集会後にも疑問の声が寄せられ、さらにあとの平尾さんのレポートにもありますが、被差別部落出身の元日本軍「慰安婦」の方の存在を知るにつけ、「慰安婦」問題の全体像はいまだ明らかになっていないとの思いを強くしました。議員や秘書の方とお会いした時は法案の早期成立と国籍条項の削除を要請しました。この問題については次の機会に詳しくご報告したいと思っています。