徐京植さんの講演会への呼びかけ
 今こそ「断絶」のかなたから呼びかける「連帯」の声を聴こう                 花房俊雄

「日朝平壌宣言」が交わされた九月一七日、衝撃的な拉致問題のニュースが流れてきた。「平壌宣言」の中の朝鮮植民地支配への賠償が「経済協力」に歪曲されている事への落胆もさることながら、拉致問題が引き起こすであろう反北朝鮮、ナショナリズムの噴出に危惧がひろがった。連日の拉致問題ニュースの推移を固唾を呑みこんで見守る中で、二四年間の苦悩と孤独の中で解決を訴えつづけてきた被害者家族の証言に接し、深い感情に揺り動かされた。戦後補償の被害者やその遺族の証言を聞いているようであった。拉致被害者やその家族に向き合う事をどこかで避けてきていた自分を恥じた。

 日朝国交回復に消極的な日本政府はもとより、日朝国交回復に熱心な社会党や知識人、人権に取り組む市民団体も拉致被害者家族の訴えに耳を貸そうとしなかった。その結果拉致被害者の支援は「新しい歴史教科書をつくる会」と同じ主張をしている右翼の団体や国会議員が固め、被害者や被害家族の尊厳回復の切実な要求が、北朝鮮敵視の世論に誘導されている。日朝交渉のもう一方の重大な課題である植民地支配下の被害者たちへの賠償・尊厳回復は無視され、「強制連行や『慰安婦』問題などの過去の問題と、現在進行している拉致問題を同一視するな」との声高な主張がはびこり、「こんなひどい国になぜ経済支援をしなければならないのだ」という声さえ流れ出している。歴史認識を欠如した洪水のようなマスコミ報道により日本社会のナショナリズムは危険水域に達しようとしている。

 拉致被害者やその家族の苦悩や怒りに共振する日本人が、相手国の戦後半世紀以上放置されている強制連行被害者やその遺族たちの苦悩や怒りに思いを馳せる事ができないのだろうか。九○年代初めにあふれ出た「慰安婦」被害者たちの証言やニュースを取り上げたマスコミは、歴史の流れの中で日朝交渉を掘り下げた報道をすることはできないのであろうか。

 深い歴史の断絶が日本社会を覆っている。その断絶が北東アジアの断絶を生み出し、朝鮮半島やアジアの人々の和解への呼びかけと平和への願いを危ういものにしている。 

 徐京植さんは「慰安婦」問題に関わり、「慰安婦」被害者の証言が日本社会で「消費」されていることを憂いながら、歴史認識の断絶を埋めるための広い視野に立った思索と提言を日本社会にし続けている、数少ないの知識人の一人です。関釜裁判を支援する会の会員である平尾さんと多くの市民の努力で今回、徐京植さんを福岡にお呼びすることになりました。二十三日の講演にはぜひ足をお運びくださいますよう願っています。