仕切り直しの第一歩 

 七月二○日吉見さん講演会報告〜  

                    日原広志

去る七月二○日(土・海の日)、ふくふくプラザにて『「つくる会」教科書を許さない市民ネットワーク・福岡』主催による吉見義明氏講演会『「慰安婦」はなぜ教科書から消されたのか?』が行われた。

 準備段階では「数年前ならいざ知らず、今の状況下で慰安婦学習会に人を集めるのは困難」と予想されたが、ふたを開けてみると、当日は、福岡近郊のみならず、遠くは広島や九州各県からも人々が駆けつけ、狭い会場に溢れた一○六名の参加者が、座席を埋め尽くし、通路や入り口にも聴衆が(スタッフが座る地べたを見つけるのに苦労するほどに)万遍なく座り込む盛況となったのは嬉しい誤算だった。冒頭の松岡さんの開会挨拶は、「吉見先生の話を聞く学習会に徹する」との趣旨から、遅れてきた集会慣れした人々が「えっ、もう吉見先生の話始まってるの?」と唖然とする程に、スピーディーに打ちきられ、一同は第一部の講演『「従軍慰安婦(日本軍性奴隷制)」問題の所在』に聴き入った。

 公娼制と軍慰安婦制の類似点と相違点とを明確にすることを通して、現時点での学問的な「慰安婦」概念整理を行い、今後の運動の課題と方向性を示唆したその講演内容は素晴らしく、聴衆にも「分かりやすかった」と好評で、後日パンフレットの形で発行した講演録は全国から引きも切らぬ注文が殺到している。詳細はそちらに譲るが、画期的な講演だった。

 これほど学問的に、政治的意図・運動論的必要による取捨選択を抜きにして、「慰安婦」の全体像を学べたのは初めてだったので、逆に慰安婦を巡る議論になぜこれほどの彼我の落差が生じるのかの問題性も浮き彫りにされたように思える。これからの「慰安婦」支援は今日明らかにされた全体像から再出発されねばならないと多くの者が感じ取った。

 一方で今回取り上げられなかったテーマとしては@なぜ教科書から削除されたのか(「集会のタイトルと講演の内容が違う」との意見あり)A日本軍の本質の問題などがあり、今後に学習の機会が待たれるものである。

 第二部では、花房さんが各地の「慰安婦」裁判と立法運動の現状について報告。会場に設置された全国「慰安婦」裁判パネルが好評で、もっとじっくり見てもらう時間がないことが惜しまれた。また愛媛県における「つくる会」側の攻勢についての最新情報は初めて聞く人も多く、会場に衝撃が走った。会場カンパと合わせ後日六二○○○円が愛媛に送られた。最後に山田先生が高校歴史教科書の問題をアピールし、集会は幕を閉じた。

 集会に人々が殺到した背景には、「つくる会」側の「リベンジ」に向けた不気味なまでに地道な継続的運動に対する、現場の危機感がそれだけ高まっていることを物語る。教科書を巡る当面の攻防に向かっても、「慰安婦」全体の尊厳回復を実現する息の長い取り組みに向かっても、仕切り直しの第一歩ともいうべき集会となったことを感謝したい。