ノリペ・ハントゥレの芝居
声なき挽歌を観て

柳沢静子

感動的、かつよくできた歴史教育用の教材であった。ハングルは解らなくても、「怒り」や「哀しみ」は十分に伝わった。「日帝によって16才の時に強制的に連行され従軍慰安婦生活を強いられたひとりの元慰安婦ハルモニが、故郷に帰って一人でひっそりと暮らしていたが、梅毒後遺症によって悲惨な生を終えるという内容で、日帝の蛮行を告発し、従軍慰安婦問題の正しい解決と真相究明を求める作品である。」日本公演実行委員会発行のパンフでの作品紹介である。

「スニ」という女性が、「不逞鮮人」にされた父親を助けるために、従軍慰安婦に志願させられ、関東軍の性的慰安の対象とされた。戦後、解放された後にもすぐには「故郷」帰れず老いて父母の墓参に帰郷するが、甥夫婦の代となっており、受け入れられない。夢の中で、「母」と再会し、「恨」を抱きながら、死んでいく。

演出の南基成氏は、こう述べている。

「韓国人の情緒を、言語と文化が異なる日本の方々に、どれ程伝えられるか気がかりです。」この作品のキーワードは「母」と「故郷」だが、1世代前つまり私の母世代にあったと思われるある種古めかしい情緒を感じた。スニが、あれほど母を恋い、故郷を懐かしむという感情には少々違和感があった。しかし、彼女は、日帝支配という逃れられない時代状況下、親に孝を尽くす為にも犠牲になった。古い道徳観のなかで生き、戦後、解放されたとはいえ、自ら選び取ることのできない人生を送らざるをえなかった。そんな彼女の唯一の心の拠り所は、「母」「故郷」だったのだろう。そう考えれば、過剰なまでの思い入れは理解できる。

再び「スニ」を殺さないためにも、また娘の世代が、2度とこのような生・性を強いられないようにするためにも、自分の人生を生きることのできる社会を創っていくことが必要なのだ。「従軍慰安婦」問題の真相究明と実質的な謝罪・補償を勝ち取る過程のなかで、実現させていきたい。そんな思いを抱きながら観た。