国側第一準備書面提出
〔この際、裁判を勉強しちゃおう!!!〕

山本悟

 昨1993年12月13日に第二回口頭弁論がひらかれ、被告・日本国は準備書面(一)を提出し、訴状の請求の原因に対する認否をしました。

裁判の手続き
 右の文を読んで、オウそうなのかとわかった人は、失礼ながら多分少ないんじゃないかと思います。そこで、まず裁判はどのように進行するのかについて、解説したいと思います。

裁判は訴状の提出で始まる
 裁判は訴状の提出によって始まります。訴状ではまず、《請求の趣旨》が記述されます。ここでは、原告が裁判で何を求めているのか、つまりどのような判決を求めているのかがのべられています。
 関釜裁判の場合は、ご存知のように公式謝罪と損害賠償の請求です。
 続いて、《請求の原因》が記述されます。ここでは、裁判に求めていることの原因となった事柄や、請求の法的根拠、請求の算出などが述べられます。
 関釜裁判の場合次のような構成になっています。

第一 事実関係

一 日帝の韓国併合と戦争への朝鮮人の動員

二 原告らの被害事実

三 戦後補償の国際的潮流

第二 原告らの請求の根拠

第三 請求

被告は答弁書を提出する
 提訴された被告は訴状に答えなければなりません。それは答弁書という形式を取ります。
 答弁書では訴状の《請求の趣旨》に対して答えるとともに、《請求の原因》の個々の記述に対して認否をします。認否とは、「認める」「争う」「不知」「留保」などの回答をすることです。「認める」は訴状の記述を承認するという意味で、すべて「認める」であれば、原告の請求どおりに裁判は終了するわけです。「争う」は訴状の記述に異議がある、「不知」は知らない、「留保」は認否をちょっと待ってくれという意味です。
 関釜裁判の答弁書は極めて簡単なものが提出され、ニュース3号2ページに全文が掲載されていますが、次のようなものです。

第一 請求の趣旨に対する答弁

   原告の請求をいずれも棄却するとの判決を求める。

第二 請求の原因に対する認否

   準備書面で認否する。

第三 被告の主張

   準備書面で主張する。

原告・被告双方が準備書面を提出する
 訴状、答弁書が出された後、争点を整理しなければなりませんが、それは準備書面と呼ばれる文書をお互いに出し合うことで行います。
 関釜裁判の場合、先に記したように、答弁書が不十分だったので、被告側第一準備書面は答弁書の補充の意味合いが強いのです。
 今後、原告・被告双方から準備書面がいくつか提出され、訴状や答弁書の補充、求釈明(相手側に説明を求める)、主張などが行われます。

証拠調べをする
 原告は証拠を提出します。証拠とは、原告が示した事実関係や主張を立証するものです。書面で出されたり(書証)します。被告はそれに反論する証拠を提出します。
 その上で証人を尋問します。
 通常、立証は原告がしなければなりません。しかし、被告側の証拠保有が原告を極めて圧迫している場合、国家や公害企業の場合ですが、挙証責任の転換といって、責めがないということを立証する責任を被告に負わせようという考え方もあります。でも日本ではまだ一般的ではありません。
 このようにして、審理を進め、双方最終準備書面で主張を整理し、陳述し、裁判所はその後判決をします。
 裁判は、おおむね以上のように進行します。

被告、第一準備書面を提出
 この準備書面は、被告答弁書の「第二 請求の原因に対する認否」を補充するものです。つまり、訴状のうち、請求の原因の部分の各項目について、認めるか争うかを表明したものです。
 概略を紹介します。

一、法的な事実関係、つまりどのような条約や法律に基づいて、朝鮮に対する植民地支配があったか、個人に対する強制があったかなどは認めています。
二、「従軍慰安婦」については、かなり踏み込んで言及しています。
 慰安婦、慰安所があったこと。設置の目的は、日本軍人の強姦などによる反日感情の醸成の防止、性病による兵力低下の防止、防諜。慰安婦の募集は、軍当局の要請を受けた経営者が業者に依頼し、本人の意向に反して募集し、官憲が直接加担する場合もあり、輸送に当たっては軍が関与した。慰安所は多く民間業者が経営したが、軍が直接経営した事例もある。民間経営の場合も、軍が開設許可、施設整備、衛生管理のための慰安所規定の制定、軍医の検査を行ったところがある。敗走時に現地に置き去りにした事例がある。などを認めています。
 これは同様の裁判に比べてみても踏み込んでいるように思えます。
三、女子勤労挺身隊については、法的側面以外についての言及がありません。
 従軍慰安婦を他の事例と切り離して「解決」しようとする日本国政府の意向の反映だと見るのは穿ち過ぎでしょうか。四、請求の根拠、つまり、法的根拠については、国は全面的に争う姿勢を示しています。

 日本国憲法についてはおおむね次のように答弁しています。
 「前文は道義的責務を規定しているだけで、具体的義務を規定したものではない。日本国政府が他国人民個々人に対する損害賠償責任を有する具体的な規定はない。」
 さらに気になるのは、現行の国家賠償法が施行以前の出来事に適用されないという主張だけでなく、明治憲法の国家無責任論に今後言及するのではないかと思われることです。明治憲法では国家・行政の一切の行為は市民に対して責任を取らなくてよかったという解釈です。

筆者は右のような感想を持ちました。今後裁判の進行にあわせて、学習会などで議論を深めていきたいと思います。
 なお、答弁書(第三 被告の主張)を補充する準備書面が早期に提出されることが期待されます。