福山からの便り
関釜裁判を支える福山連絡会
武藤貢
忘れられない日となった三月二九日。この日、広島高裁は、関釜裁判控訴審について一審下関判決を破棄し、原告敗訴の判決を下した。「ひょっとしたらよい判決が聞けるのでは」という淡い期待は、一瞬のうちにはじけてしまった。
逃げるように立ち去る裁判長を糾す原告たち、気を失うほどの深い怒りと悲しみに包まれた原告たちの姿、裁判所の廊下では、「不当判決を許さないぞ」とシュプレヒコールが響いた。この日の光景は、生涯忘れえぬものになった。
翌日の福山での「報告集会」では、凛として「最後まで闘う」ことを表明した原告たちの姿があった。そして、わたしたちは、原告たちの「息づかい」を感じ取りながら、最後まで関釜裁判支援の戦いを継続することを確認した。
そして、控訴審判決から五ヶ月が経過、情況は、わたしたちの想像をはるかに越えて危険な方向に激しく動きはじめた。なかでも教科書問題や靖国問題にみられるように戦争責任の問題や歴史認識のあり方が根底的に問われ、当然わたしたちも無関心ではいられなかった。
わたしたちも他の市民運動団体と協力して福山市教育委員会に対して「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集された中学校社会科教科書の「歴史」と「公民」を採択しないように申し入れた。結果は、不採択。わたしたちが要望した「選考過程を公開してほしい」ということもおおむね実現した。そして、韓国全国教職員労働組合大邱(テグ)支部の人々との交流の機会も得た。
また、靖国問題に関しても、小泉首相は、「政治家として二度と戦争を起こしてはならないという誓いをこめて、靖国に参拝する」などと主張して八月一三日に靖国参拝を強行した。彼は、戦争被害について語りつつも、中国や韓国・北朝鮮の戦争被害者に思いを馳せることはなかった。
戦後補償問題の解決にむけた運動の一端を担うわたしたちにとって、こうした問題はどうしても看過できない。なぜなら、これらの問題の矢はわたしたちの運動にも向けられているからだ。これまで以上に運動の内容と実践を鍛えなくてはならない。
六月の大阪地裁での在韓被爆者に関する判決や七月の東京地裁での強制連行に関する判決では、原告たちの訴えがほぼ認められた。しかし、元日本軍性奴隷被害者(元日本軍「慰安婦」)を原告とする裁判では、今もまだ大変厳しい現状がある。アジアの戦争被害者たちは高齢で残された時間は少ない。彼や彼女たちの願いをかなえるためのわたしたちの課題は、数多くあるが現状を見極め的確な闘いを実現していきたい。