弁護士に聞く U 
山本晴太さん

裁判のきっかけは

《戦後補償の問題に関わり始めたのは、どういったきっかけからですか》

1988年に京都の在日韓国人の宗斗会さんが、日本政府は朝鮮と朝鮮人に公式謝罪すべきだという意見広告を朝日ジャーナルに出そうと呼びかけたんですよね。で、「朝鮮と朝鮮人に公式陳謝を百人委員会」という名称で出したんです。

僕も民族差別とか植民地支配の問題についての関心は高校生の頃からあって、宗さんとも長いつきあいだったので、名前を出しました。戦後補償の関わりはこの時からですね。

《この裁判に関わるきっかけは》

その後、宗さんの呼びかけで大分の主婦の青柳さんが韓国に訴訟の原告を探しに行ったんですが、この事が今行われている多くの戦後補償裁判のきっかけになったんです。僕が東京で弁護士をやっているときに、釜山で金文淑さんが弁護士を探しているからやらないかと言った人がいたんです。それなら釜山の近くの福岡の弁護士がいいだろうと、山崎吉男さんと李博盛さんを紹介したんです。2人とも修習同期の弁護士です。まあ、振ったんですよ。とこらが、僕が福岡に帰ることになって、言い出しっぺですからやらざるを得ない。

第一回口頭弁論

《被告・国の対応はどうでしたか。》

答弁書がすでに提出されていて、それを陳述した形です。訴状(編集注・当会発行「あやまれそしてつぐなえ」参照)も読んでもらえれば分かりやすいと思いますが、請求の趣旨に対する答弁だけが出されているわけです。全部拒否という形で。ところが請求の原因、原告の主張に対しては一切答えてない。これは準備書面で出しますと言っています。

この訴状は浮島丸訴訟の訴状と基本的に同じ主張なので、浮島丸訴訟の答弁書と同じ書き方なら、国側はすぐ出せるわけです。それも出さないのは、何か思うところがあるのでしょうか。

李弁護士の意見陳述

《李博盛さんの代理人意見陳述にみんな感動していましたが》

あれはね、李さん1人で考えたんです。非常に格調高く、李さんに分担しておいてよかった。てれずにああいうことを言えるのはすごい。(笑い)

《裁判官も聞いてて感動したでしょうね》

おそらく、あの人達の在任中には判決はでないでしょうけどね。

《民主主義に対する信頼を感じましたが》

何とかすべきものってあるわけで、あれだけ立派な憲法を持っている所で、こういうことが何ともならないなら、憲法の下にある法の方がおかしい。というか、今の法律で謝罪と賠償が実現しないなら、法律のないことがおかしい。

この裁判の意義

《そうなると司法立法というか、立法不作為の判決を求めるということですか》

法律を作らないのが違法だとか、法律をつくれと命令する判決が出るのは現在の司法制度の下では難しいでしょうね。

《やはり憲法で、ということですか》

この裁判ではまずメインの主張は、日本国憲法前文は日本に道義的国家たるべき義務を課しているから、国家賠償法を類推適用して謝罪と賠償をせよというものです。戦後補償は日本のあり方を問う問題ですから、日本の最高法規である憲法に根拠を求めたかったのです。ただ、実際にはこの主張を裁判所が認めると思いません。

《問われているのは日本の戦後補償のあり方だということですね》

裁判所が原告のこのような主張を認めなかったとしても、裁判の中で実態として謝罪と賠償をすべき現実が明らかにされ、しかも謝罪と賠償を根拠づける法が見当たらないとすれば、これを放置してきた日本の立法・行政のありかたが問われることになります。そのような意味で、この裁判が戦後補償の実現の力になることを期待しているわけです。

賠償に変わる措置

《賠償に代わる救済措置といわれますが》

見舞金を払うとしても、従軍慰安婦だけでしょう。それがおかしい。それだけ認めて幕を引くというところがあって。

それと恩恵みたいな形ですよね。アメリカの市民自由法で、日系人に賠償した時にブッシュは丁寧な謝罪文を書いていますよ。ところが、日本が台湾人に対して200万払った時のものは、「下記の通り裁定したので通知します」だけ。(笑い)これだけだからね。責任に触れていないですよね、謝罪してもいない。これが日本の人道的措置というものなんでしょうね。

《日本の戦後補償に問題あり、ですか》

毎日新聞によれば戦後補償の合計要求額は19兆円らしいですね。日本人に対して、恩給とか援護法などで支払ったのが31兆円。日本人の被害に対して31兆円でアジアの被害に対して19兆円で片付いたら、えらいお買い得ですよね。

《援護法に問題がありそうですね。》

そうです。近ごろ本当にそう思うようになった。日本は戦後補償をやっているわけですよ。しかし、その体系がおかしい。戦争を支えた人に、ご苦労様と言って、巻き込まれた人、被害を受けた人には何もしない。それを逆にすればいいだけのことなんで、金はあるんだから。それを逆にするような法律が必要ですね。援護立法全部改正すべきですね。

二次訴訟について

《二次原告はどんな方ですか》

5人です。元女子勤労挺身隊の人が4人。皆釜山とその近郊。1人は不二越に連れて行かれた人。3人が沼津の東京麻糸、テイジンの子会社ですが。皆下関経由で連れて来られた。

1人は元「従軍慰安婦」で、光州の人。上海の慰安所に連れて行かれた。

支援する会に対して

《支援する会や会報の読者に期待することはいろいろあると思いますが、まず大きなやるべきことについて》

謝罪立法、賠償立法を作る運動をやって欲しい。これが大きい期待です。

《裁判の直接的な支援ということでは》

情報を探してください。下関に何かあるかもしれないし。不二越は富山の訴訟に期待するとしても沼津をなんとかしなくちゃ。

《実は代表の松岡さんが沼津出身で、事務局の花房恵美子さんが富山出身です。》

話がうまく出来過ぎている。(笑い)

《資料探しの面で》

まず現在の雑誌、新聞、テレビ、文献資料。証人になる人。下関、上海、富山、沼津、経験者は福岡にもいるでしょ。戦友会とか。

[98日。インタビュアー・中津千穂子、録音起し・花房恵美子、要約構成・山本悟]