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韓国国会議員ロビー活動に参加して
関釜裁判を支える福山連絡会 都築寿美枝
(Last Update 2001.12.30)

1.経過と目的
 12月8〜12日、東京の戦争被害調査会法を実現する市民会議のメンバー4人(この会の協同代表であり平和遺族会の西川重則さん、同事務局長の川村一之さん、台湾の性奴隷裁判を支援する山口明子さん、柴洋子さん)と共に韓国の国会議員を訪問し、戦後補償問題解決促進のための協力要請活動を行ってきました。12月11日から13日までソウルで開かれる韓国と日本の国会議員たちによる韓日議員連盟合同総会にタイミングを合わせたものです。
ハ 日本では戦後補償問題を一日も早く解決させるために国立国会図書館の中に調査会を設けて日本政府の責任で真相究明を行おうとする「恒久平和調査局設置法案(国立国会図書館法改正案)」が衆議院で継続審議になると共に、参議院に提出されていた「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」が継続審議となっています。
 「人道に対する罪に時効はない」「個人の請求権は認められ、賠償されるべきだ」とする国際世論の高まりや関釜裁判を支える会でも精力的に取り組んだ署名活動なども大きな力となりました。韓国訪問前に市民会議のメンバーは日本の国会議員へこの二つの法案が可決できるように熱心に請願活動を行いました。
 一方韓国では今年10月12日に「日帝強制占領下強制動員被害真相究明等に関する特別法案」が超党派の議員たちから提案され、審議中です。この法案は韓国政府の責任で正確に戦時中の被害調査を行い、真相究明と被害者の人権回復を図ろうとするものです。
 教科書問題や小泉首相の靖国参拝の背景には政府レベルでの事実調査が行われず、責任が曖昧にされてきたことがあげられます。韓国と日本、共に国会で真相究明法(韓国は大統領直属の政府機関に、日本は立法府直属の国会図書館に調査局を設けて戦争被害について調査を行い、公表することを定めた法案)が審議されるというタイミングは、両国にとって政治的にも社会的にも戦争被害調査は避けて通れない歴史の必然だという概念が熟して来ていることを証明しています。

2.韓国国会議事堂で
 今回受け入れ窓口になってくださったのは、韓国の真相究明法案の代表発議者の金元雄(キム・ウォンウン)議員です。日本の恒久平和議連幹事長の田中甲衆議院議員の紹介です。
 12月11日、国会議事堂の貴賓食堂で5名の国会議員さん、政府側からは政府記録保存ソウル事務所長さん、東北アジア課長さんたちが「靖国神社合祀日帝強制徴用被害者位牌本国送還のための懇談会」を開いてくださり、韓国市民運動側からはソウル平和市民連帯の姜済淑(カン・ジェスク)さん、太平洋戦争被害者補償推進協議会の李煕子さん(イ・ヒジャ)(父親が強制徴用され、今年の夏靖国に合祀されていたことが判明、合祀取り下げ訴訟を起こした遺族)、金銀植(キム・ウンシク)さん、民族問題研究所の金敏普iキム・ミンチョル)さんが私たちと共に参加し、昼食を交えて意見交流をしました。
 国会議員側からは「韓国人がA級戦犯と合祀されていることは許せな
いことだ。」「小泉首相の登場で韓日関係は冷たくなる。歴史歪曲問題については日本だけの歴史ということはあり得ない。サンマ漁問題などについても日本側から小泉政権を突き上げてほしい。」という意見が出されました。
 遺族側からは「150万〜200万人の強制連行被害者の実体が戦後50年以上経っても明らかにされていない。93年に軍人軍属名簿が日本政府によって出されたが、当時は合祀の意味がよく理解されなかった。我々の合祀取り下げ要求を靖国神社は拒否している。靖国神社は帝国主義の精神的支柱として作られ、植民地時代我が国では神社参拝を拒否して死刑にされた人もいる。日本では首相の靖国神社参拝訴訟が各地でおき、首相の暴言に対してもまた訴訟が起きている。真相究明法が国会で審議されており、歴史事実を明らかにする必要性がますます高まってきている。95、96年に遺骨返還運動が起きたものの進展がなく、この問題に関する法的整備が必要である。韓国でも問題解決に向けて国会議員と市民団体の定期的な会合を持ちたい。」という意見が出されました。
 これに対して市民会議側からは「政府は政教分離だと言うが、戦没者名簿は当時の厚生省が作成し靖国神社へ渡してきた経過がある。都合よく使い分けている。」「最近アメリカでは『日本帝国政府記録公開法』(戦時中の日本軍資料や政府記録を公開させる法律)が成立し、韓国でも真相究明特別法案が審議中だ。真相究明について日米韓が一体となって調査する条件が整いつつあると思う。」という意見が出されまし
た。
 韓国政府側からは「日本から渡された名簿には45万8646人の強制連行者名があり、昨年までに850人の問い合わせに答えてきた。来年から名簿が閲覧できるようにコンピューターへ取り込む作業中である。位牌返還など政府としてできることがあれば協力したい。」との意見があり、法案提出議員の1人である金元雄国会議員は「靖国神社では神道式に紙に名前が書かれており、民族として強制連行も合祀も許せない。我が国でこの問題解決が遅れたのは冷戦構造に挟まれていた期間が大きく影響している。クリントン米前大統領は韓国に来てノグンリ事件(朝鮮戦争時米軍兵士による韓国人虐殺事件)に対して謝罪し、韓国の金泳三(キム・ヨンサム)前大統領もベトナム戦争時の韓国軍兵士によるベトナム民間人虐殺に関して謝罪してきた。事実検証、謝罪は当然の社会となってきている。今まで闇の中に葬り去られようとしてきた真実を見つけ出す時代となっている。韓国でも真相究明特別法案を国会で審議中で、ぜひともこの法案を通したいと思っている。」と語られました。
ハ 食後のデザートとコーヒーが出たところで私は広島からの参加者として、また関釜裁判支援団体を代表して「関釜裁判が広島高裁に移るとき、私たちは原爆の被害地広島でアジアへの加害問題を真摯に受け止めて、被害も加害も二度と起こさない社会を築いていくために支援に立ち上がろうと決意した。関釜裁判の支援活動を通して被害者ハルモニを核に韓日の市民連帯が強化され、韓日市民署名が16万も集まった。政府レベルでは教科書、靖国問題でぎくしゃくしているが私たちは市民レベルでの連帯をさらに強化して日本政府を追い込んでいきたい。被害者のハルモニは高齢化し、すでに1人は亡くなられている。私たちとしてはハルモニたちの年齢と健康を考えて一日も早くこの問題を解決したいと思っている。そのためにもぜひみなさんの協力をお願いしたい。」と意見を述べました。
 海外では「(被爆地)広島から来た。」という言葉はこちらが意図しなくても相手を引きつけるのに十分値する重みを持っていると今回も感じました。最後のまとめとして議員さんたちから「今回の韓日議員連盟では法的地位向上についての分科会で在日コリアンの問題や戦後補償問題について取り扱う予定だ。この会は韓日両政府を側面からサポートする団体であり、意見や資料を生かせるように努力する。と同時に我々は靖国、教科書、戦後補償問題について要求し続けていく。日本側がどの程度受け止めてくれるかわからないが、(政治レベルと市民レベルの)双方から働きかけていかないといけない。共に頑張りましょう。」という力強いご挨拶をいただき、懇談会の横断幕をバックに記念撮影をして2時間あまりの懇談会を終えました。

3.国会議員会館に各議員を訪問
 同じ敷地内にある国立国会図書館で国会議員の顔写真も載っている国会手帳を購入し、午後からは二組に分かれて各国会議員の部屋を訪ねて回りました。西川さん、山口さん、芝さん、金銀植さん組は法案提出議員の部屋を中心に回り、川村さん、私、姜済淑さん組は韓日議連議員の方を回りました。ほとんど議員さんは不在でしたが、補佐官(政策秘書官のような役職)が対応してくださり野党、与党を問わず、反応はとてもいいものでした。中には日本の議員室の2倍以上はあるという奥の応接室で大変丁寧に対応してくださるところもありました。戦後補償問題解決は、靖国・教科書問題ともつながる内容なので共通して関心が高いように感じられました。
 「とても大切なことなので責任を持って議員に資料を渡し、伝えます。」「関係議員だけでなく国会議員全員を回って訴えたらどうか。」など力強い反応は疲れた体に元気を与えてくれました。
 次の日も一日国会議員会館内をぐるぐる回り、正直言って二日目の夕方には足が重くなっていました。中には好意的に「韓国の被害者のためにわざわざありがとうございます。」と言われる方もおられましたが、これに対して私は「被害者のためだけでなく、これは日本の人権問題として早急に解決しなければならない問題です。戦後補償がきっちりと行えないようでは日本人の私たちの人権も保障されないのと同じです。この運動は私たちのための運動でもあります。」と答えていきました。
 次の日の京郷新聞に私たちの記事が載り、この話が紹介されました。
 「様々な戦後補償運動が行われると同時に政府の責任で真相究明、謝罪、賠償が行われることも車の両輪のような関係でとても大切なことと考えている。」という西川代表のコメントも紹介されていました。国会からの帰りのタクシーの中で私たちのロビー活動がニュースとなっているのを聞いて、今回の行動が韓日友好平和のために少しでも役に立てればと思いました。

4.おわりに
ハ 大役を果たしてソウル最後の夜は市民運動団体の方たちとの交流夕食会でした。ソウル中心部にある現代自動車ビルディング横のお店で韓国伝統料理に舌鼓を打ちながら飲んだマッコリの味はまた格別なものでした。参加したのは戦後補償問題に精力的に取り組む張完翼(チャン・カンイク)弁護士、通訳件コーディネート役の姜済淑さん、金銀植さん、民族的人格権を主張し父親の靖国合祀取り下げ訴訟を起こした李煕子さ
ん、太平洋戦争被害者補償推進協議会会長の李種鎮(イ・ジョンジン)さんやそのメンバー、挺対協の梁美康(ヤン・ミガン)さん、教科書問題に取り組む民族問題研究所の金敏浮ウんたちでした。
 靖国、教科書問題から大久野島での毒ガス製造、ハンセン病訴訟から小鹿島に強制隔離された人たちの問題に話はどんどん発展し、充実した楽しい時間があっという間に過ぎていきました。
 前日の夜にはこの夏、小泉首相靖国参拝に抗議して東京でハンガーストライキをした全羅北道の李京海(イ・キョンヘ)議員が3時間半も車を飛ばして市民会議のメンバーに連帯の挨拶に来ました。李煕子さんは多田謡子反権力人権賞受賞で14日から東京へ行き、また姜済淑さんの方には金沢や佐賀から日本の市民グループが交流に訪れます。かくいう私も22日から韓国からの平和スタディツァーの一行を迎えます。ますます強まる韓日市民連帯の力で、逆行する勢力に対決していこうとまた決意を新たにする旅でした。