Topページに戻る不二越強制連行訴訟不当判決に対する弁護団の声明2007年9月19日
第2次不二越訴訟弁護団
1 本日,富山地方裁判所は,女子勤労挺身隊被害者である韓国人女性21名,徴用被害者である韓国人男性1名が,株式会社不二越及び国を被告として,1944年から1945年にかけて被告らによって被告不二越(当時は不二越鋼材工業株式会社)の工場に強制連行され過酷な労働を強制されたことに対する未払賃金相当額及び慰謝料の支払いと謝罪を求めた,第2次不二越訴訟について,請求棄却(うち1名は請求却下)の不当判決を下した。
2 本件訴訟は,いわゆる戦後補償訴訟として,日本の国と企業が過去の違法行為による被害に対してどう責任をとるのかが問われた訴訟であった。
とりわけ,本件で問題となった女子勤労挺身隊による強制連行・強制労働の特徴について端的に述べれば,被告らが一体となって,当時12歳〜14,5歳という幼い少女がほとんどをしめる原告らに対して,拉致・誘拐に等しい犯罪的手段で強制連行・強制労働を行い,しい肉体的・精神的苦痛を与えた(そして現在も与え続けているという,きわめて差別的かつ不公正で重大な国際人権法違反を伴う国家的犯罪行為を行ったにもかかわらず,現在に至るまでその責任をとっておらず謝罪もしていない,という点に特徴があるといえる。
かかる恥ずべき行為に対して,原告らが救済を求めることは当然であり,原告らの請求はいずれも極めて正当なものであった。
3 本件訴訟において,被告不二越は,強制連行・強制労働の事実自体を争い,強制はなかったとか,原告らだけを差別的に取り扱ったものではなく違法なことはしていない,賃金も支払った,などと主張した。また,被告国は,本件訴訟について法律問題だけで原告の請求は棄却されるべきであり事実審理は不要であるとして,事実認否すら一切行わないという,過去の歴史と自らの責任に背を向けた極めて不当な態度をとった。
しかし,本日の判決において,裁判所は,原告らの主張をほぼ全面的に採用して,被告不二越及び被告国の行為が違法な強制連行・強制労働であったことを明確に認定した。
すなわち,判決においては,勧誘の際に多くの原告が欺罔や脅迫を受けたこと,かかる違法な勧誘が被告国の地方の役人,教員等の公務員が関与して組織的になされていたこと,劣悪な環境のもとで重労働が強制されたこと,賃金の支払いがなされていなかったことを認定しており,被告国と被告不二越が違法な強制連行・強制労働を行い,賃金さえ支払わず原告らに重大な苦痛を与えたことが判決の事実認定によって明確に断罪されているといえる。
裁判所が,既に述べた被告らの不当な主張・態度にもかかわらず,強制連行・強制労働の事実を明確に認定したこと自体は,極めて正当であり,弁護団としても高く評価するところである。
4 上記の事実認定からすれば,被害者である原告らに対して当然救済がなされるべきであったが,裁判所は,1965年の日韓請求権協定を理由に,原告らの請求権は日韓請求権協定によって,権利自体は消滅しないものの被告らが裁判で請求に応じるべき法的義務は消滅した,との認定を行い,結論として原告らの請求を棄却した。
上記の本件判決の理由付けは,本年4月27日最高裁が中国人強制連行西松建設訴訟判決において判示した内容をそのまま本件に当てはめたものであり,本年5月31日の名古屋三菱女子勤労挺身隊訴訟についての名古屋高裁判決と同様の内容であるが,極めて不当である。
そもそも,何故に国家が個人の請求権を勝手に処分できるのか,という根本的な問題について,上記最高裁判決では「対人主権によって可能」というだけで説得力のある具体的な理由付けはなされていない。
にもかかわらず,今回の富山地裁判決は上記最高裁を無批判かつ機械的に本件に当てはめたものであって,理論的に明らかに誤りである。
また,とりわけ日韓請求権協定については,宮沢首相の時代に,首相自ら韓国の新聞のインタビューに答えて個人の請求権は請求権協定によっても放棄されておらず日本国内での提訴は可能との見解を示していたにもかかわらず,判決は今更になって訴訟による救済は受けられないとする被告国の主張を全面的に追認したのであって,かかる判断の実質的な不当性も明らかである。
5 本件訴訟においては,訴訟の過程で,強制労働条約の適用(実施)について,被告国が直接適用もできなければ立法措置による間接適用も不要であるとの異常な態度を示したことから,同条約の適用についての裁判所の判断が注目されたが,判決は同条約によっては個人の請求権は認められないとするのみで,強制労働の事実自体は認定しながら,国に間接適用による被害救済を求めることすらしていない。このことは,国内における条約適用に責任を負う裁判所の態度として極めて不当であり,日本の国家機関があげて強制労働条約の実施義務の履行を放棄したことを意味するものとして重大である。国際社会からの批判も免れないところである。
6 以上述べたとおり,本件判決が強制連行・強制労働の事実を認定しながら原告の請求を棄却したその理由は法的に誤った見解というほかない。
拉致・誘拐に等しい方法で幼い少女らを強制連行し過酷な労働を強制したという,重大かつ深刻な人権侵害事件である本件について,裁判所が被害者の救済を否定したことは,「人権の砦」としての司法の役割を自ら放棄するものであって,断じて許されない。
7 被告らによる重大な人権侵害によって深刻な被害を受け,今も苦しみ続けている原告らには,必ず司法的救済がなされなければならない。このことは,近時国際社会が強く日本に求め続けていることでもある。
弁護団は,速やかに控訴の手続をとって,控訴審において原判決の誤りを徹底的に明らかにしていきたいと考える。控訴審では必ずや原告の請求認容の逆転判決を勝ち取れるものと考えており,正義と人権の擁護と被害の救済のために原告らと共に今後とも闘い続ける。
また,被告ら,とりわけ被告不二越については,重大な人権侵害行為である強制連行・強制労働の事実が判決によって認定された以上,原告らの被害を放置することが許されないのは当然であって,被告ら自らがその責任において速やかに被害救済にあたるよう強く求める。
以 上